ある中堅小売企業の新任CIO(最高情報責任者)であるゲーリーは、会社をデジタル時代に対応させる計画を立て始めるようCEOに求められた。この課題に直面しているのは彼だけではない。そして彼は、会社がデジタル時代に適切に対応すれば、大きな見返りが得られる可能性があることを知っている。実際、2023年までに実績あるデジタルワークプレース技術を駆使し、社員のデジタルを使いこなす力の増進に取り組む中堅企業は、そうでない企業と比べて優れた業績を挙げる可能性が2倍高くなる。
ゲーリーが最初に踏むべきステップは、中堅企業のCIOが最大の課題と考えていること――つまり、文化の変革とデジタル成熟度の向上に取り組むことだ。
「IT部門とビジネス部門のスタッフの持ち前の多才さを利用し、両者を密接に連携させる必要がある」と、Gartnerのシニアリサーチアナリストを務めるジョー・マリアーノ氏はアドバイスする。
「そうすれば、ITリソースへの依存を最小限に抑えるとともに、情報と技術をフルに活用し、企業のリーチを広げられる。ただし、そのためには高度な規律が求められるため、管理メカニズムを再評価する必要があるだろう」(マリアーノ氏)
ビジネス部門に効果的な業務遂行に必要なツールを配備すれば、企業は融通性とアジリティ(俊敏性)を高められ、社員の関与度と生産性も向上し、IT担当者はデジタルトランスフォーメーションに、より多くの時間をかけられる。ゲーリーが企業のこうしたデジタルビジネスへの取り組みをお膳立てするには、中堅企業に固有の課題に対処するとともに、ビジネス部門とIT部門のコラボレーションを強化しなければならない。
どんな課題をクリアすべきか
中堅企業がデジタル化に着手するには、全社からメンバーを集めた部門横断チームがさまざまなスキルを発揮し、社内で共有するビジョンに取り組む必要がある。このチームに適した人材を選ぶことが重要だ。企業におけるデジタル化の成功は、チームのメンバーが率先垂範できるかにかかっているからだ。
1.ビジネス部門への"大使"となる「ITバーサタイリスト」を見つける
CIOは、ビジネス部門への"大使"となるITインフラ&オペレーション(I&O)の「バーサタイリスト(複数の役割をこなせる人材)」を見つける必要がある。ビジネス部門への大使は、CIOがビジネス部門とIT部門の連携を確保する上で重要な役割を担うが、現時点でもITスタッフの平均63%がバーサタイリストとして仕事をしているため、大使の候補は何人かいるだろう。
大使として選ぶべきは、折り紙付きの非技術的なスキル(ビジネスインテリジェンスなど)を持つ一方、ソフトウェア開発やデジタル製品の管理、ITアーキテクチャにも精通している人材だ。大使は、ビジネス部門にデジタル化のビジョンを訴求させる責任を持つ。そのため、必ず賢明に選ばなければならない。
2.ビジネス部門の社員にコラボレーションにおける問題点を挙げてもらう
社員の既存の知識を生かしてプロセスの課題を明らかにする。これは、社員が複数の役割をこなす中堅企業では特に有効だ。こうした社員はビジネスに関する洞察に加えて、異なる部門がどのように相互に関わっているかについての洞察も提供できる。
3.IT部門の大使とビジネス部門の選ばれた社員から成るチームを設置する
第3のステップは、これら2つのグループを結集して総合的なデジタルビジネスチームを設置することだ。チームの目標は、特定の技術の改良を進めることではなく、全社的なデジタル戦略を考え、新しいデジタル体験の指針を提供することにある。チームは成功事例を社内に共有し、デジタルワークプレースの価値をアピールする。
2018年9月14日金曜日
2018年9月13日木曜日
米国サッカー殿堂、NECの顔認証システムで来場客一人一人の好みに合わせた展示を実現
NECは2018年9月11日、グループ会社のNECコーポレーション・オブ・アメリカが、2018年10月に米テキサス州に開設される米国サッカー殿堂「National Soccer Hall of Fame」に、顔認証システムを提供したと発表した。
National Soccer Hall of Fameは、米国サッカー界の発展に寄与した人物をたたえる施設。顔認証システムを活用して、来場客一人一人の好みに合わせた展示を行い、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の向上を実現する。
来場客は、入場時に自身の顔画像と併せて、出身地、好きなチームやポジションなどの情報を登録。これにより、展示エリアでは顔認証システムが近づいてきた来場客を特定し、来場客の登録情報に応じた展示内容をデジタルサイネージなどに優先的に表示する。
今回、同社が提供した顔認証システムは、NECの顔認証AIエンジン「NeoFace」を活用したもの。ディープラーニングによって、顔の向きの変化や低解像度の顔画像にも対応するなど、高精度な顔認識が可能。米国国立標準技術研究所(NIST)による動画顔認証技術のベンチマークテスト(FIVE)で、世界第1位となる照合精度99.2%の性能評価を獲得しており、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の関係者エリアの入場ゲートへの採用も予定されている。
National Soccer Hall of Fameは、米国サッカー界の発展に寄与した人物をたたえる施設。顔認証システムを活用して、来場客一人一人の好みに合わせた展示を行い、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の向上を実現する。
来場客は、入場時に自身の顔画像と併せて、出身地、好きなチームやポジションなどの情報を登録。これにより、展示エリアでは顔認証システムが近づいてきた来場客を特定し、来場客の登録情報に応じた展示内容をデジタルサイネージなどに優先的に表示する。
今回、同社が提供した顔認証システムは、NECの顔認証AIエンジン「NeoFace」を活用したもの。ディープラーニングによって、顔の向きの変化や低解像度の顔画像にも対応するなど、高精度な顔認識が可能。米国国立標準技術研究所(NIST)による動画顔認証技術のベンチマークテスト(FIVE)で、世界第1位となる照合精度99.2%の性能評価を獲得しており、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の関係者エリアの入場ゲートへの採用も予定されている。
機械学習に基づいた「ふるまい検知」で未知のマルウェアを防ぐ――FFRI
2017年はランサムウェア攻撃や標的型攻撃などが目立ったが、2018年は取引先から本丸のターゲット企業へ侵攻して重要データを搾取するサプライチェーン型攻撃、実行ファイルではなく不正コードを実行するファイルレス攻撃が増えるだろう――企業に対するサイバー攻撃の現状を解説したFFRIの岡田一彦氏は、「最も効果的なマルウェア対策は検知と同時に取り押さえられるエンドポイント対策」と断言する。
「ファイアウォールやIPS(不正侵入防御システム)などゲートウェイ対策の多くは既知のマルウェア攻撃が前提で、未知のマルウェアはすり抜けるし、サンドボックスもファイルレス攻撃を見逃す可能性が高い」
そこでFFRIが提案するのは、ふるまい検知型エンドポイント製品「FFRI yarai」だ。定義ファイルに依存せず、不正なふるまいを機械学習に基づき判断、未知のマルウェアを防ぐ。オフライン環境でも動作し、軽量なことから金融機関などでも採用が多いという。
「定義ファイルを用いた従来のアンチウイルスソフトと併用できるので、エンドポイントの多層防御が実現する」
「ファイアウォールやIPS(不正侵入防御システム)などゲートウェイ対策の多くは既知のマルウェア攻撃が前提で、未知のマルウェアはすり抜けるし、サンドボックスもファイルレス攻撃を見逃す可能性が高い」
そこでFFRIが提案するのは、ふるまい検知型エンドポイント製品「FFRI yarai」だ。定義ファイルに依存せず、不正なふるまいを機械学習に基づき判断、未知のマルウェアを防ぐ。オフライン環境でも動作し、軽量なことから金融機関などでも採用が多いという。
「定義ファイルを用いた従来のアンチウイルスソフトと併用できるので、エンドポイントの多層防御が実現する」
2018年9月12日水曜日
“RPA×AI”で業務効率化を支援する「Roboforce」 RPA人材教育やモックアップ提供も――RPAテクノロジーズとaiforceが提供開始
RPAテクノロジーズとaiforce solutions(以下、aiforce)は2018年9月7日、業務提携を発表。9月10日から"RPA×AI"で実務を高度化させる共同サービス「Roboforce」の提供を開始した。
「Roboforce」のブランドネームとブランドキャラクター
両社によると、RPA(Robotic Process Automation)の活用は大企業から中小企業へと拡大を見せ、定型業務の自動化に加え、OCRやAIとの連携による高度な業務効率化にも注目が集まっている一方で、AIに対する理解が追い付いていないといった現状がある。また、AIを活用したRPAを導入したものの十分に活用できず、費用が高い割に成果が出ていないといったケースもあるという。
そこで今回、RPAテクノロジーズは、AIの実務活用について豊富な知見を有するaiforceと提携し、共同サービスとして、RPA/AIの活用に関する人材教育から、RPA/AIを活用したプロジェクトの推進まで一気通貫した支援を提供する。
具体的なサービス内容と提供価格(税別)は、「RPA/AI教育・コンサルティング」と「イノベーションワークショップ」が50万円から、「モックアップまで提供するPoC(概念実証)」が300万円から。
その他、2018年10月には、RPAテクノロジーズのRPAプラットフォーム「BizRobo!」と連動した分析自動化ソリューションを開始する。今後は、RPAとAIを活用できる女性人材の育成も開始予定だという。
「Roboforce」のブランドネームとブランドキャラクター
両社によると、RPA(Robotic Process Automation)の活用は大企業から中小企業へと拡大を見せ、定型業務の自動化に加え、OCRやAIとの連携による高度な業務効率化にも注目が集まっている一方で、AIに対する理解が追い付いていないといった現状がある。また、AIを活用したRPAを導入したものの十分に活用できず、費用が高い割に成果が出ていないといったケースもあるという。
そこで今回、RPAテクノロジーズは、AIの実務活用について豊富な知見を有するaiforceと提携し、共同サービスとして、RPA/AIの活用に関する人材教育から、RPA/AIを活用したプロジェクトの推進まで一気通貫した支援を提供する。
具体的なサービス内容と提供価格(税別)は、「RPA/AI教育・コンサルティング」と「イノベーションワークショップ」が50万円から、「モックアップまで提供するPoC(概念実証)」が300万円から。
その他、2018年10月には、RPAテクノロジーズのRPAプラットフォーム「BizRobo!」と連動した分析自動化ソリューションを開始する。今後は、RPAとAIを活用できる女性人材の育成も開始予定だという。
Facebook、画像・動画内のポリシー違反テキスト検出AIツール「Rosetta」導入
米Facebookは9月11日(現地時間)、Facebookおよび傘下のInstagramに投稿される画像・動画内のテキストを検出する機械学習システム「Rosetta」を発表した。既に導入済みだ。
このシステムは、ニュースフィードに関連性の高いコンテンツを表示することやユニバーサル機能に貢献していることに加え、ヘイトスピーチやフェイクニュースなど、ポリシー違反コンテンツの早期検出に役立つという。
Rosettaは現在、FacebookとInstagramに投稿される1日当たり10億点以上の画像および動画からテキストをリアルタイムで抽出し、テキストとイメージのコンテキストを理解するよう訓練されたテキスト認識モデルに入力している。
R-CNNで画像から単語を検出し、完全畳み込みモデルで単語を認識する2ステップモデルアーキテクチャ
Rosettaはまず、画像からテキストを含む可能性の高い長方形の領域を検出し、検出した領域をテキスト認識する。この作業には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用する。
長方形部分をテキストとして検出
このシステムは、英語以外でも、アルファベット以外でも認識する。例えば、右から左に読むアラビア文字でも、ヒンディでも認識するという。このシステムを訓練するために、Facebookは公開された画像を使っている。
世界に20億人以上のユーザーを擁する同社では、ヘイトスピーチやフェイクニュースへの迅速で正確な対策が大きな課題になっている。
このシステムは、ニュースフィードに関連性の高いコンテンツを表示することやユニバーサル機能に貢献していることに加え、ヘイトスピーチやフェイクニュースなど、ポリシー違反コンテンツの早期検出に役立つという。
Rosettaは現在、FacebookとInstagramに投稿される1日当たり10億点以上の画像および動画からテキストをリアルタイムで抽出し、テキストとイメージのコンテキストを理解するよう訓練されたテキスト認識モデルに入力している。
R-CNNで画像から単語を検出し、完全畳み込みモデルで単語を認識する2ステップモデルアーキテクチャ
Rosettaはまず、画像からテキストを含む可能性の高い長方形の領域を検出し、検出した領域をテキスト認識する。この作業には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用する。
長方形部分をテキストとして検出
このシステムは、英語以外でも、アルファベット以外でも認識する。例えば、右から左に読むアラビア文字でも、ヒンディでも認識するという。このシステムを訓練するために、Facebookは公開された画像を使っている。
世界に20億人以上のユーザーを擁する同社では、ヘイトスピーチやフェイクニュースへの迅速で正確な対策が大きな課題になっている。
2018年9月11日火曜日
RPAでいかに営業活動を支援できるか? デジタルマーケティング推進室の挑戦
現在、デジタル技術による業務革新が急速に進行している分野の1つに、企業のマーケティング活動がある。
かつて企業のマーケティング業務は、「経験と勘」や「人海戦術」がものをいう世界だった。過去に優れた実績を上げてきたマーケッターやプランナーが練り上げた広告施策やマーケティングの活動計画を、大量の人手を投入して一気に展開する。そして多くの場合、そのようにして打ったマーケティング施策の効果は厳密に検証されることなく、また次のマーケティング計画へと全員で一斉になだれ込んでいくことが少なくなかった。
しかしWeb広告の登場とその急速な普及が、マーケティングの世界を一気に変えつつある。Webサイトやメールなどの媒体を介して消費者一人一人にリーチするデジタル広告は、その効果のほどがこと細かに記録されるため、その効果が検証しやすい。そうやって検証・分析した結果をさらに次の施策に反映させることで、マーケティングやキャンペーンの精度をどんどん高めていき、より費用対効果の高いマーケティング活動を実現するのだ。こうしたデジタルマーケティングの手法が、もはや当たり前のものとなりつつある。
富士通マーケティングも、こうした新しいマーケティング活動に積極的に取り組む企業の1社だ。同社は社内に「デジタルマーケティング推進室」という専門部署を設け、既存ビジネスをデジタルマーケティングの手法で活性化・効率化するとともに、2020年までにデジタルマーケティングの枠組みを全社的に適用したまったく新たな営業プロセスの確立を目指し、日々最新のマーケティング手法の実践とその検証に取り組んでいる。
同社では既に、デジタルマーケティングには欠かせない「MA(Marketing Automation)ツール」を導入し、デジタルマーケティング施策の立案、実行、結果検証のプロセスの大部分を自動化することに成功している。この取り組みを通じて、成約率が高いであろうと推測される見込み客(リード)を発掘し、そのリストを営業部門に引き渡すことがデジタルマーケティング推進室の大きなミッションの1つとなっている。
可能な限り良質なリード情報を発掘して、それを実際の商談に結び付けることで会社全体の収益に貢献する。デジタルマーケティング推進室にはこうした期待が全社から寄せられており、それに応えるべくメンバーは日々MAツールを駆使して既存のマーケティング施策のブラッシュアップや、新たな手法の開拓に取り組んでいる。
デジタルツールの活用が進むほど人手作業も増える
ただし、同社のこうした取り組みも、現在幾つかの課題に直面しているという。デジタルマーケティング推進室で導入しているMAツールは、確かにデジタルマーケティング施策に必要な作業のかなりの部分を自動化してくれる。しかし現実のマーケティング業務は、MAツールだけではとてもカバーしきれない。実際には、MAツールが自動実行してくれる作業の前後、あるいはそのはざまで数多くの人手作業が発生する。
MAツールを使って、顧客の行動履歴やキャンペーンの効果を細かく分析すればするほど、さらに詳細にデータを分析してマーケティング施策を練り上げたくなる。そうなると、新たな分析対象となるデータを社内外のシステムから集めてきたり、それらを登録・集計するための作業が発生したりする。当然、これまで収集対象とはされていなかったデータを集めるわけだから、多くの場合は手作業を余儀なくされる。このように、MAツールを使ってデジタルマーケティングの活動を深めれば深めるほど、オートメーション化に反する人手作業が増えていくというジレンマが発生するのだ。
また、こうやって新たな取り組みに人手が割かれるようになると、どうしても本来注力すべき業務の方が手薄になりがちだ。例えば、MAツールのデータベースから情報を抽出して、レポートにまとめて営業部門をはじめとする関係各所に配布する作業。一般的にMAツールへのアクセス権限はマーケティング部門の担当者に限られており、それ以外の部署の人間は直接アクセスできないようになっている。
しかしMAツールには、「顧客が自社サイトでどのような情報をチェックしたのか」「どのようなコンテンツをダウンロードしたのか」「どのイベントに参加申し込みをしたのか」といった、顧客の興味や購買意欲を示唆する貴重な情報が詰まっている。こうした情報を社内の営業部門にフィードバックするために、デジタルマーケティング推進室では定期的にMAツールのデータベースから人手でデータを抽出し、営業部門ごとにカスタマイズしたレポートをまとめて配布している。
MAツールを使った新たなデジタルマーケティングの活動に熱心になればなるほど、こうした既存の作業に投じられる人手が不足するわけだが、このレポート作成作業は極めて大量のデータを集計する必要があり、1回当たり6時間以上(処理待ちの時間を含む)の作業時間を要する。結果、営業部門にレポートを提示するタイミングが遅れがちになり、クレームを受けることも最近ではしばしばだという。
RPAによるデジタルマーケティング業務の自動化に着手
こうした状況を打破し、既存業務を効率化しつつ同時に新たなデジタルマーケティング施策を開拓するための方策として富士通マーケティングのデジタルマーケティング推進室が導入を始めているのが、前回、前々回の記事でも紹介した「RPA(Robotic Process Automation)」だ。前述のように、データベースから大量のデータを抽出してレポートにまとめるような作業は、比較的単純な繰り返し作業である上、人手では極めて長い時間がかかるため、RPAの仕組みに代行させて自動化するメリットが極めて大きいと考えたのだ。
同社では現在、全社規模でRPAによる業務の自動化・効率化に取り組んでいるが、真っ先に手を挙げた部署の1つがデジタルマーケティング推進室だった。既に、国産RPA製品を使っていくつかの業務を自動化する取り組みに着手しており、技術検証の段階にまで進んでいる。
経理部門や人事部門のように定型作業が多く発生する部署と比べると、マーケティング部門は一般的に定型業務が少ないイメージが強い。事実その通りなのだが、限られた人員の中で常に新たな取り組みにチャレンジしていくためには、既存の非定型業務を何とか定型化してシステムで自動化するほかない。マーケティング部門の場合は、業務の形態自体が時代とともに変化していくため、相応のコストを投じてシステム開発を行って自動化を実現しても、次々に新しいニースが発生するためその都度システム改修が発生する。しかしその点、RPAなら比較的低コスト・短期間のうちに自動化を実現できるため、マーケティング業務のシステム化には費用対効果の面でも適していると言える。
ただし、実際にRPAの導入検討に着手してみると、当初は思いもよらなかったような課題の数々に直面したという。実際に導入検討を始める前は、デジタルマーケティング推進室のメンバーは「人手の作業をシステムで記録するだけで簡単に自動化できるだろう」と踏んでいたが、実際にRPAを触ってみるとそう簡単ではないことが分かってきた。一見すると、人が何も考えずに機械的に操作しているように見える作業でも、それをいざロボットに記録しようとすると、「条件によっては、表示される画面をスクロールしないと選択したいリストが表示されない」「この操作のタイミングは、前の処理が終了したタイミングで実行すべきものだがどれだけ間を空ければいいのか」「定期的に変更が必要なパスワードをどうやって入力させるか」など、人が半ば無意識のうちに認識・判断して実行している作業の精度をRPAでも実現するためには、極めて高度なノウハウが必要なことが分かったという。
RPAの実際の導入に当たっては同社の情報システム部門や、RPAソリューションに実績のあるパートナー企業の協力を全面的に仰ぎ、かつデジタルマーケティング推進室の中にもシステム開発の経験者がいるため、試行錯誤を繰り返しながらも一歩一歩着実に業務自動化の実現に向け歩を進めているという。
今後はAI活用など新たな取り組みにもRPAを適用
デジタルマーケティング推進室では現在、既存の人手作業の中からRPAで自動化できそうなもの、自動化の効果が高そうなものを洗い出して、実際に自動化できるかどうか検証を進めているところだ。加えて今後は、新たに発生する業務や、これまで「人手でこれだけ大量の処理を行うのは無理」とか、「1回の処理に時間がかかり過ぎて頑張っても月2回が限度」と判断してあきらめていたような業務を、RPAで自動化していく試みも進めていくという。
例えば、人工知能(AI)の活用などもその1つだ。既にMAツールを中心に大量に収集した顧客データやマーケティングデータを、人がMAツールやBIツールの機能を使って分析している。しかし今後はそれだけでなく、AIを使い、大量のデータを人が見て分かりやすい形にすることでまったく新たな知見を得たり、高精度な将来予測を行ったりしたいとしている。既に一部でそうした試みも始めているが、より高精度なAI分析を実現するには、今よりもさらに大量のデータを収集して分析する必要がある。
そうなると、今でさえさまざまな場所からデータを人手でかき集めるのに苦労しているのに、さらに多くの人手を費やすはめになってしまう。この部分にRPAを適用すれば、さまざまなロケーションから多種多様なデータを自動的に収集・集計し、AI処理の前段となる「データマネジメント」の作業を大幅に効率化できる。AIを使ったデジタルマーケティングのさらなる高度な活用においては、RPAによるこうした自動化が不可欠だと同社では判断しているという。
以上で見てきたように、デジタルマーケティング推進室では、「既存業務の効率化」「新たな取り組みのための手段」という2軸でRPAの導入に取り組んでおり、少しずつ成果が表れつつある。こうした取り組みの過程で得られたノウハウは、自社内だけに留めるのではなく、富士通マーケティングが顧客企業のマーケティング業務を支援する際に提供するソリューションにも適宜反映させていく。デジタルマーケティングを今後積極的に取り入れていきたいと考えている企業にとっても、富士通マーケティングの挑戦は大きな価値をもたらしそうだ。
かつて企業のマーケティング業務は、「経験と勘」や「人海戦術」がものをいう世界だった。過去に優れた実績を上げてきたマーケッターやプランナーが練り上げた広告施策やマーケティングの活動計画を、大量の人手を投入して一気に展開する。そして多くの場合、そのようにして打ったマーケティング施策の効果は厳密に検証されることなく、また次のマーケティング計画へと全員で一斉になだれ込んでいくことが少なくなかった。
しかしWeb広告の登場とその急速な普及が、マーケティングの世界を一気に変えつつある。Webサイトやメールなどの媒体を介して消費者一人一人にリーチするデジタル広告は、その効果のほどがこと細かに記録されるため、その効果が検証しやすい。そうやって検証・分析した結果をさらに次の施策に反映させることで、マーケティングやキャンペーンの精度をどんどん高めていき、より費用対効果の高いマーケティング活動を実現するのだ。こうしたデジタルマーケティングの手法が、もはや当たり前のものとなりつつある。
富士通マーケティングも、こうした新しいマーケティング活動に積極的に取り組む企業の1社だ。同社は社内に「デジタルマーケティング推進室」という専門部署を設け、既存ビジネスをデジタルマーケティングの手法で活性化・効率化するとともに、2020年までにデジタルマーケティングの枠組みを全社的に適用したまったく新たな営業プロセスの確立を目指し、日々最新のマーケティング手法の実践とその検証に取り組んでいる。
同社では既に、デジタルマーケティングには欠かせない「MA(Marketing Automation)ツール」を導入し、デジタルマーケティング施策の立案、実行、結果検証のプロセスの大部分を自動化することに成功している。この取り組みを通じて、成約率が高いであろうと推測される見込み客(リード)を発掘し、そのリストを営業部門に引き渡すことがデジタルマーケティング推進室の大きなミッションの1つとなっている。
可能な限り良質なリード情報を発掘して、それを実際の商談に結び付けることで会社全体の収益に貢献する。デジタルマーケティング推進室にはこうした期待が全社から寄せられており、それに応えるべくメンバーは日々MAツールを駆使して既存のマーケティング施策のブラッシュアップや、新たな手法の開拓に取り組んでいる。
デジタルツールの活用が進むほど人手作業も増える
ただし、同社のこうした取り組みも、現在幾つかの課題に直面しているという。デジタルマーケティング推進室で導入しているMAツールは、確かにデジタルマーケティング施策に必要な作業のかなりの部分を自動化してくれる。しかし現実のマーケティング業務は、MAツールだけではとてもカバーしきれない。実際には、MAツールが自動実行してくれる作業の前後、あるいはそのはざまで数多くの人手作業が発生する。
MAツールを使って、顧客の行動履歴やキャンペーンの効果を細かく分析すればするほど、さらに詳細にデータを分析してマーケティング施策を練り上げたくなる。そうなると、新たな分析対象となるデータを社内外のシステムから集めてきたり、それらを登録・集計するための作業が発生したりする。当然、これまで収集対象とはされていなかったデータを集めるわけだから、多くの場合は手作業を余儀なくされる。このように、MAツールを使ってデジタルマーケティングの活動を深めれば深めるほど、オートメーション化に反する人手作業が増えていくというジレンマが発生するのだ。
また、こうやって新たな取り組みに人手が割かれるようになると、どうしても本来注力すべき業務の方が手薄になりがちだ。例えば、MAツールのデータベースから情報を抽出して、レポートにまとめて営業部門をはじめとする関係各所に配布する作業。一般的にMAツールへのアクセス権限はマーケティング部門の担当者に限られており、それ以外の部署の人間は直接アクセスできないようになっている。
しかしMAツールには、「顧客が自社サイトでどのような情報をチェックしたのか」「どのようなコンテンツをダウンロードしたのか」「どのイベントに参加申し込みをしたのか」といった、顧客の興味や購買意欲を示唆する貴重な情報が詰まっている。こうした情報を社内の営業部門にフィードバックするために、デジタルマーケティング推進室では定期的にMAツールのデータベースから人手でデータを抽出し、営業部門ごとにカスタマイズしたレポートをまとめて配布している。
MAツールを使った新たなデジタルマーケティングの活動に熱心になればなるほど、こうした既存の作業に投じられる人手が不足するわけだが、このレポート作成作業は極めて大量のデータを集計する必要があり、1回当たり6時間以上(処理待ちの時間を含む)の作業時間を要する。結果、営業部門にレポートを提示するタイミングが遅れがちになり、クレームを受けることも最近ではしばしばだという。
RPAによるデジタルマーケティング業務の自動化に着手
こうした状況を打破し、既存業務を効率化しつつ同時に新たなデジタルマーケティング施策を開拓するための方策として富士通マーケティングのデジタルマーケティング推進室が導入を始めているのが、前回、前々回の記事でも紹介した「RPA(Robotic Process Automation)」だ。前述のように、データベースから大量のデータを抽出してレポートにまとめるような作業は、比較的単純な繰り返し作業である上、人手では極めて長い時間がかかるため、RPAの仕組みに代行させて自動化するメリットが極めて大きいと考えたのだ。
同社では現在、全社規模でRPAによる業務の自動化・効率化に取り組んでいるが、真っ先に手を挙げた部署の1つがデジタルマーケティング推進室だった。既に、国産RPA製品を使っていくつかの業務を自動化する取り組みに着手しており、技術検証の段階にまで進んでいる。
経理部門や人事部門のように定型作業が多く発生する部署と比べると、マーケティング部門は一般的に定型業務が少ないイメージが強い。事実その通りなのだが、限られた人員の中で常に新たな取り組みにチャレンジしていくためには、既存の非定型業務を何とか定型化してシステムで自動化するほかない。マーケティング部門の場合は、業務の形態自体が時代とともに変化していくため、相応のコストを投じてシステム開発を行って自動化を実現しても、次々に新しいニースが発生するためその都度システム改修が発生する。しかしその点、RPAなら比較的低コスト・短期間のうちに自動化を実現できるため、マーケティング業務のシステム化には費用対効果の面でも適していると言える。
ただし、実際にRPAの導入検討に着手してみると、当初は思いもよらなかったような課題の数々に直面したという。実際に導入検討を始める前は、デジタルマーケティング推進室のメンバーは「人手の作業をシステムで記録するだけで簡単に自動化できるだろう」と踏んでいたが、実際にRPAを触ってみるとそう簡単ではないことが分かってきた。一見すると、人が何も考えずに機械的に操作しているように見える作業でも、それをいざロボットに記録しようとすると、「条件によっては、表示される画面をスクロールしないと選択したいリストが表示されない」「この操作のタイミングは、前の処理が終了したタイミングで実行すべきものだがどれだけ間を空ければいいのか」「定期的に変更が必要なパスワードをどうやって入力させるか」など、人が半ば無意識のうちに認識・判断して実行している作業の精度をRPAでも実現するためには、極めて高度なノウハウが必要なことが分かったという。
RPAの実際の導入に当たっては同社の情報システム部門や、RPAソリューションに実績のあるパートナー企業の協力を全面的に仰ぎ、かつデジタルマーケティング推進室の中にもシステム開発の経験者がいるため、試行錯誤を繰り返しながらも一歩一歩着実に業務自動化の実現に向け歩を進めているという。
今後はAI活用など新たな取り組みにもRPAを適用
デジタルマーケティング推進室では現在、既存の人手作業の中からRPAで自動化できそうなもの、自動化の効果が高そうなものを洗い出して、実際に自動化できるかどうか検証を進めているところだ。加えて今後は、新たに発生する業務や、これまで「人手でこれだけ大量の処理を行うのは無理」とか、「1回の処理に時間がかかり過ぎて頑張っても月2回が限度」と判断してあきらめていたような業務を、RPAで自動化していく試みも進めていくという。
例えば、人工知能(AI)の活用などもその1つだ。既にMAツールを中心に大量に収集した顧客データやマーケティングデータを、人がMAツールやBIツールの機能を使って分析している。しかし今後はそれだけでなく、AIを使い、大量のデータを人が見て分かりやすい形にすることでまったく新たな知見を得たり、高精度な将来予測を行ったりしたいとしている。既に一部でそうした試みも始めているが、より高精度なAI分析を実現するには、今よりもさらに大量のデータを収集して分析する必要がある。
そうなると、今でさえさまざまな場所からデータを人手でかき集めるのに苦労しているのに、さらに多くの人手を費やすはめになってしまう。この部分にRPAを適用すれば、さまざまなロケーションから多種多様なデータを自動的に収集・集計し、AI処理の前段となる「データマネジメント」の作業を大幅に効率化できる。AIを使ったデジタルマーケティングのさらなる高度な活用においては、RPAによるこうした自動化が不可欠だと同社では判断しているという。
以上で見てきたように、デジタルマーケティング推進室では、「既存業務の効率化」「新たな取り組みのための手段」という2軸でRPAの導入に取り組んでおり、少しずつ成果が表れつつある。こうした取り組みの過程で得られたノウハウは、自社内だけに留めるのではなく、富士通マーケティングが顧客企業のマーケティング業務を支援する際に提供するソリューションにも適宜反映させていく。デジタルマーケティングを今後積極的に取り入れていきたいと考えている企業にとっても、富士通マーケティングの挑戦は大きな価値をもたらしそうだ。
2018年9月10日月曜日
約60時間を非常用電源設備で乗り切った石狩データセンターの奇跡
停電中の約60時間を非常用電源設備で乗り切った石狩データセンター。いったいどこがすごいのか?改めてきちんと解説していきたい。
2018年9月6日に北海道を襲った震災により、停電状態に陥ったさくらインターネットの石狩データセンターに対し、9月8日ようやく電力供給が再開された。想定を超えた約60時間を非常用電源設備で乗り切り、インフラ事業者としての矜持を見せた石狩データセンターの「奇跡」について、改めてきちんと説明していきたいと思う。
2011年11月に開設された石狩データセンターは、数多くのサーバーを収容するさくらインターネットの基幹データセンターになる。開設当時はソーシャルゲームの普及でサーバーの需要がうなぎ登りだったほか、環境に配慮したエコなデータセンターが求められていた。こうしたニーズに対応する石狩データセンターは、寒冷地のメリットを活かした外気冷却と東京ドーム1個分に相当する広大な敷地を用いたスケーラビリティが大きな売りだった。私も開設時と増設時で2回ほど現地に足を運んでおり、現地のエンジニアとも話をしている。同じデータセンターに2度訪れることなんてほぼないので、個人的にも思い入れが深い。
思い起こせば、なぜ石狩だったのか?皮肉なことにその大きな一因は災害リスクが低いことであった。同社の石狩データセンターの紹介にも「石狩地域は、今後30年間で震度6以上の地震が発生する確率が0.1~3%と低く、(以下略)」と明記されており、さくらインターネットにとっても今回の地震は「想定外」だったはずだ。しかし、今回さくらは約3000ラックを超える巨大データセンターを非常用電源設備で60時間無停止で運用し続けた。卓越したオペレーション能力で未曾有の停電を乗り切り、「想定外」を「想定内」にしてしまったのだ。
東日本大震災のときは首都圏のデータセンターが停電の影響をあまり受けてないので、ここまで長時間での非常用電源設備の運用はおそらく初めて。世界的に見てもあまり例を見ないはずだ。しかも、途中で電力が一部復活し、燃料調達にめどが付いたこともあり、非常用電源設備停止の直前は、1週間近い連続稼働まで視野に入れていた。薄氷を踏むどころか、最後は余力すらあったわけだ。
さくらにとって絶対落とせなかった石狩データセンター
まずは話の前提としてデータセンターの停電対策について簡単に説明しておきたい。実は9月6日に北海道の震災が発生してから、石狩データセンターに関しては経緯から復旧まで3本の記事を挙げているのだが、どれもシンプルな速報体裁。細かい説明を割愛していたため、書き手としてもどれだけ読者に伝わっているか正直不安だった。しかも、ITに対する知識の不足により、いたずらに不安をあおるような報道も多い。これを読めば、今回さくらがどれだけすごかったのか、信頼性というデータセンターの役割をきちんと果したのか、少しは理解してもらえるはずだ。
個人・企業問わず数多くのサーバーが集まるデータセンターでは、停電時の対策として非常用電源設備が用意されている。そのため、電力会社からの電力供給が停止すると、バックアップ用のUPSで非常電源設備の起動までの時間を確保し、ガスや重油などの燃料を用いて自家発電するようになっている。発電の際に用いられる燃料も多くのデータセンターでは48時間程度の燃料が備蓄されているので、停電が起こってもおおむね2日間は運用は止まらない。とはいえ、一連の設備はどれも高価で、日本でも自前できちんと運用できる事業者はそれほど多くない。さくらインターネットはこうした数少ない事業者のうちの1つだ。
石狩データセンターでも48時間稼働する分の重油を備蓄していた。しかし、今回の大規模な停電からの復旧は当初「1週間後」と発表されており、実際に東日本大震災のときは停電解消が約80%に至るまで3日間、94%に至るまで8日間かかっている。そのため、電力供給が再開せず、重油が足りなくなったら、石狩データセンター自体の稼働を停止しなければならなかった。
もし石狩データセンターが停止に追い込まれたら、そのインパクトは計り知れない。40万以上にも上るさくらのレンタルサーバのユーザーや、メルカリやマネーフォワードといったWebサービス事業者、官公庁や学術機関などのサービスも大きな影響を受けることになる。また、石狩データセンターならではの事情として、ユーザー自身が運用するコロケーションもそれなりにある。さくらインターネットにとっては絶対落とせないデータセンターなのだ。
停止した場合の影響が大きく、しかも給電がいつ再開されるかわからないという絶体絶命の状態だったが、さくらインターネットは見事この難関を乗り切った。
停電当初はUPSの障害により、一部のサーバーで障害が発生したものの、これは約4時間で解消し、無事に非常用電源設備の運用に切り替えた。その後、石狩市役所、経済産業省など関係各所からの燃料調達により、非常用電源設備で約60時間も稼働させた。停電にも関わらず、約3000ラックを有する巨大データセンターを2日半無停止で運用し続けたのだ。
やはり賞賛されるべきは、石狩データセンターの現場のエンジニアだ。おおよそ災害対策やBCPと呼ばれるものはあくまで「計画」に過ぎず、本番のときにうまく機能しなかったという例は枚挙にいとまがない。その点、さくらの場合、普段の訓練や保守をきちんと実施し、関係機関と密に連携してきたからこそ、「北海道全土で停電する」という未曾有の事態にも対応できたわけだ。あたりが圧倒的な闇に沈み、家族や実家が心配という不安の中、「よくがんばったね」と現地のエンジニアに声をかけたい。
そして、そんな現地のエンジニアたちをさくらのチーム力が支えた。外部と連携して燃料を調達したり、ユーザーやパートナーからの数多くの問い合わせをさばいたり、正確な情報を外部にリアルタイムに発信したりといった活動をタイムラインで見ながら、「絶対にデータセンターを落とさない」という気概を感じた。これこそ物理的なインフラからクラウドサービスまでを一気通貫で提供できるさくらインターネットの強み。今回の件は、豊富な資金とスケールを持つメガクラウドとは異なる価値観を提供するさくらインターネットの存在意義を世に知らしめ、ユーザーから圧倒的な信頼感を勝ち取るはずだ。
2018年9月6日に北海道を襲った震災により、停電状態に陥ったさくらインターネットの石狩データセンターに対し、9月8日ようやく電力供給が再開された。想定を超えた約60時間を非常用電源設備で乗り切り、インフラ事業者としての矜持を見せた石狩データセンターの「奇跡」について、改めてきちんと説明していきたいと思う。
2011年11月に開設された石狩データセンターは、数多くのサーバーを収容するさくらインターネットの基幹データセンターになる。開設当時はソーシャルゲームの普及でサーバーの需要がうなぎ登りだったほか、環境に配慮したエコなデータセンターが求められていた。こうしたニーズに対応する石狩データセンターは、寒冷地のメリットを活かした外気冷却と東京ドーム1個分に相当する広大な敷地を用いたスケーラビリティが大きな売りだった。私も開設時と増設時で2回ほど現地に足を運んでおり、現地のエンジニアとも話をしている。同じデータセンターに2度訪れることなんてほぼないので、個人的にも思い入れが深い。
思い起こせば、なぜ石狩だったのか?皮肉なことにその大きな一因は災害リスクが低いことであった。同社の石狩データセンターの紹介にも「石狩地域は、今後30年間で震度6以上の地震が発生する確率が0.1~3%と低く、(以下略)」と明記されており、さくらインターネットにとっても今回の地震は「想定外」だったはずだ。しかし、今回さくらは約3000ラックを超える巨大データセンターを非常用電源設備で60時間無停止で運用し続けた。卓越したオペレーション能力で未曾有の停電を乗り切り、「想定外」を「想定内」にしてしまったのだ。
東日本大震災のときは首都圏のデータセンターが停電の影響をあまり受けてないので、ここまで長時間での非常用電源設備の運用はおそらく初めて。世界的に見てもあまり例を見ないはずだ。しかも、途中で電力が一部復活し、燃料調達にめどが付いたこともあり、非常用電源設備停止の直前は、1週間近い連続稼働まで視野に入れていた。薄氷を踏むどころか、最後は余力すらあったわけだ。
さくらにとって絶対落とせなかった石狩データセンター
まずは話の前提としてデータセンターの停電対策について簡単に説明しておきたい。実は9月6日に北海道の震災が発生してから、石狩データセンターに関しては経緯から復旧まで3本の記事を挙げているのだが、どれもシンプルな速報体裁。細かい説明を割愛していたため、書き手としてもどれだけ読者に伝わっているか正直不安だった。しかも、ITに対する知識の不足により、いたずらに不安をあおるような報道も多い。これを読めば、今回さくらがどれだけすごかったのか、信頼性というデータセンターの役割をきちんと果したのか、少しは理解してもらえるはずだ。
個人・企業問わず数多くのサーバーが集まるデータセンターでは、停電時の対策として非常用電源設備が用意されている。そのため、電力会社からの電力供給が停止すると、バックアップ用のUPSで非常電源設備の起動までの時間を確保し、ガスや重油などの燃料を用いて自家発電するようになっている。発電の際に用いられる燃料も多くのデータセンターでは48時間程度の燃料が備蓄されているので、停電が起こってもおおむね2日間は運用は止まらない。とはいえ、一連の設備はどれも高価で、日本でも自前できちんと運用できる事業者はそれほど多くない。さくらインターネットはこうした数少ない事業者のうちの1つだ。
石狩データセンターでも48時間稼働する分の重油を備蓄していた。しかし、今回の大規模な停電からの復旧は当初「1週間後」と発表されており、実際に東日本大震災のときは停電解消が約80%に至るまで3日間、94%に至るまで8日間かかっている。そのため、電力供給が再開せず、重油が足りなくなったら、石狩データセンター自体の稼働を停止しなければならなかった。
もし石狩データセンターが停止に追い込まれたら、そのインパクトは計り知れない。40万以上にも上るさくらのレンタルサーバのユーザーや、メルカリやマネーフォワードといったWebサービス事業者、官公庁や学術機関などのサービスも大きな影響を受けることになる。また、石狩データセンターならではの事情として、ユーザー自身が運用するコロケーションもそれなりにある。さくらインターネットにとっては絶対落とせないデータセンターなのだ。
停止した場合の影響が大きく、しかも給電がいつ再開されるかわからないという絶体絶命の状態だったが、さくらインターネットは見事この難関を乗り切った。
停電当初はUPSの障害により、一部のサーバーで障害が発生したものの、これは約4時間で解消し、無事に非常用電源設備の運用に切り替えた。その後、石狩市役所、経済産業省など関係各所からの燃料調達により、非常用電源設備で約60時間も稼働させた。停電にも関わらず、約3000ラックを有する巨大データセンターを2日半無停止で運用し続けたのだ。
やはり賞賛されるべきは、石狩データセンターの現場のエンジニアだ。おおよそ災害対策やBCPと呼ばれるものはあくまで「計画」に過ぎず、本番のときにうまく機能しなかったという例は枚挙にいとまがない。その点、さくらの場合、普段の訓練や保守をきちんと実施し、関係機関と密に連携してきたからこそ、「北海道全土で停電する」という未曾有の事態にも対応できたわけだ。あたりが圧倒的な闇に沈み、家族や実家が心配という不安の中、「よくがんばったね」と現地のエンジニアに声をかけたい。
そして、そんな現地のエンジニアたちをさくらのチーム力が支えた。外部と連携して燃料を調達したり、ユーザーやパートナーからの数多くの問い合わせをさばいたり、正確な情報を外部にリアルタイムに発信したりといった活動をタイムラインで見ながら、「絶対にデータセンターを落とさない」という気概を感じた。これこそ物理的なインフラからクラウドサービスまでを一気通貫で提供できるさくらインターネットの強み。今回の件は、豊富な資金とスケールを持つメガクラウドとは異なる価値観を提供するさくらインターネットの存在意義を世に知らしめ、ユーザーから圧倒的な信頼感を勝ち取るはずだ。
エンジン内部に入り込んで点検する小型ロボ ロールス・ロイスが開発中
ロールス・ロイスが開発を進めるエンジン点検用の小型ロボット「SWARM」© AOL Inc. 提供 【ビデオ】ロールス・ロイスが開発を進めるエンジン点検用の小型ロボット「SWARM」
"世界最小の整備士たち"とでも言うべきだろうか。このロールス・ロイスによる「SWARM」と呼ばれる小型ロボットは、エンジン修理の未来を我々に見せてくれる。
ロールス・ロイスは、ハーバード大学と協力して4つ脚の小型ロボットを開発。このSWARMは、航空機におけるエンジンのメンテナンス作業に革命をもたらすように設計されている。そのサイズからエンジンの中に入り込むことが可能で、わざわざエンジンを機体から下ろす必要がなくなるのだ。
SWARMは4本の脚を持ち、縦にも横にも移動できる。現在は開発中の段階で、ロールス・ロイスはこれらの小さなロボットを、さらに小型化していく計画だ。各ロボットには小型カメラを搭載し、オペレーターにライブ映像を送る。最終的には直径10mm程度まで小型化され、ヘビ型ロボットの助けを借りてエンジンの内部へと送り込まれるという。
ロールス・ロイスは、これらの小型ロボットの迅速な点検が、エンジン・メンテナンスのコストを削減するようになると述べている。皆さんは、小型ロボットたちに自分の愛車のメンテナンスをお願いしたいと思うだろうか?
"世界最小の整備士たち"とでも言うべきだろうか。このロールス・ロイスによる「SWARM」と呼ばれる小型ロボットは、エンジン修理の未来を我々に見せてくれる。
ロールス・ロイスは、ハーバード大学と協力して4つ脚の小型ロボットを開発。このSWARMは、航空機におけるエンジンのメンテナンス作業に革命をもたらすように設計されている。そのサイズからエンジンの中に入り込むことが可能で、わざわざエンジンを機体から下ろす必要がなくなるのだ。
SWARMは4本の脚を持ち、縦にも横にも移動できる。現在は開発中の段階で、ロールス・ロイスはこれらの小さなロボットを、さらに小型化していく計画だ。各ロボットには小型カメラを搭載し、オペレーターにライブ映像を送る。最終的には直径10mm程度まで小型化され、ヘビ型ロボットの助けを借りてエンジンの内部へと送り込まれるという。
ロールス・ロイスは、これらの小型ロボットの迅速な点検が、エンジン・メンテナンスのコストを削減するようになると述べている。皆さんは、小型ロボットたちに自分の愛車のメンテナンスをお願いしたいと思うだろうか?