2017年6月23日金曜日

Intel、CPU+FPGAなど打ち出し自動運転攻略へ

 自動車は、車輪の付いたデータセンターになっていく。データセンターで培った経験、ノウハウが生かせる。

 2017622日、Intelの日本法人であるインテルが都内で自動車分野に向けた取り組み状況に関するメディア向け説明会を実施し、自動車分野に向けて積極的な投資を継続し、事業を拡大させていく姿勢を打ち出した。

 インテル社長の江田麻季子氏は、「自動運転領域は、Intel5つの注力分野の1つ」と、Intelにおける自動車、自動運転向け事業の位置付けを説明する。Intelは現在、PC向けに主軸を置いたビジネスから、クラウドやネット対応端末に対し製品、サービスを提供するビジネスへの転換を急ぐ。そこでIntelは、高性能なコンピューティング製品でクラウド、データセンターの処理性能を高め、そこにつながる端末にも接続性、高い性能を提供しさらにデータを多く生みだし、クラウド、データセンターの処理要求を高め、そこに製品を提供するという「成長に向けた戦略的サイクル」を掲げ、プロセッサに加え、メモリや買収したAlteraIntel プログラマブル・ソリューションズ事業本部)のFPGAといった製品で「戦略的サイクルを加速させる」(江田氏)という成長を図っている。自動車、自動運転領域についても、この戦略的サイクルを適用し、ビジネスの拡大を狙う。

Intelが描く成長に向けた戦略的サイクル (クリックで拡大) 出典:インテル

「車両」「ネットワーク」「クラウド」に対して

 Intelは自動運転システムを構成する「車両」「ネットワーク」「クラウド」という3つの要素に対して製品、サービスを展開する「Intel GO 自動運転プラットフォーム」を構築。包括的に自動運転の実現をサポートできる体制を整えているとする。

Intel GO 自動運転プラットフォーム」のイメージ (クリックで拡大) 出典:インテル

 クラウドについては、既にプロセッサ「Xeon」などで高い実績を誇り、ここにFPGAを加え、今後需要の拡大するAI(人工知能)、ディープラーニング処理向けでのビジネス拡大を狙う。ディープラーニング処理では、GPGPUなどと競合することになるが「FPGAは消費電力性能に優れる利点がある。加えて、Intelは、高性能なCPUFPGAを一気通貫で提供できる唯一のメーカー」(日本アルテラ社長 和島正幸氏)とし、他のデバイスやメーカーよりも優位にある点を強調した。

CPUFPGAを組み合わせることによる優位性を強調した (クリックで拡大) 出典:インテル

 ネットワークについても、プロセッサやFPGAの展開に加え、自動運転が本格化する2020年ごろの実用化が予定されている5G(第5世代移動通信)対応モデム、ベースバンドLSIの提供でビジネスを拡大させる。5Gモデム、ベースバンドの開発についても「他社に先行し、2017年末にはサンプルチップを提供できるだろう」(インテル執行役員Automotive担当 大野誠氏)する。

自動運転に向けたIntelの製品、サービス概要 (クリックで拡大) 出典:インテル

 「ここ10年あまりの取り組みで、インフォテインメント領域を中心に30車種以上での採用された」とし、徐々に実績を残している車両向けにもCPUFPGAを組み合わせた提案などを行う。「これまで、自動車で新たな機能を追加するとECU(電子制御ユニット)の搭載数が増えた。しかし、これからは仮想化技術などを応用しECUは統合されていく。この動きは、データセンターと同じ流れ。自動車は、車輪の付いたデータセンターになっていく。データセンターで培った経験、ノウハウが生かせる」(大野氏)とクラウド、データセンター領域でのIntelの優位性が車両領域でも発揮できるとの自信を示した。

 

加熱する米中「スーパーコンピュータ戦争」 米政府は280億円出資

スーパーコンピュータ(スパコン)の開発を巡る国際競争が激化している。

米国エネルギー省(DOE)は6月15日、エクサスケール・スパコン開発プロジェクトの一環として、AMD、クレイ(Cray)、ヒューレット・パッカード(HPE)、IBM、インテル、エヌビディア(NVIDIA)の6社に対し、2億5800万ドル(約287億円)の資金援助を行うことを明らかにした。資金は、今後3年間に渡って提供される。

エクサスケール・スパコンは、浮動小数点演算を1秒間に100京回(1兆の100万倍)行うことができる。プロジェクトの総費用は4億3000万ドルを超える見通しで、この内最低でも40%を6社が負担することになる。DOEは、2021年までにエクサスケール・スパコンを1台完成させ、2023年までに少なくとも2台の運用を目指している。

現在、米国で最速のスパコンはオークリッジ国立研究所の「タイタン(Titan)」だ。世界最速は中国の「神威太湖之光(Sunway TaihuLight)」で、世界で初めて100ペタフロップスを突破し、124.5ペタフロップスの理論最大性能を実現した。興味深いことに、このスパコンに使われているCPUは、全て中国が独自開発したものだ。米政府は中国に対抗するため、2015年にインテルが最新チップを中国のスパコンプロジェクト向けに供給することを禁止した。

中国政府は10年で18兆円を投資

中国の半導体産業はまだ発展途上だが、中国政府は国際競争力を高めるために、今後10年間で1610億ドル(約18兆円)を投じる計画を発表している。

中国は米国を追い抜き、世界初のエクサスケール・スパコンの開発を目指している。中国は、1月にプロトタイプの運用開始が間近であることを発表しており、完成予定は2020年を見込んでいる。

エクサスケール・スパコンは、経済予測や気候調査など、極めて複雑な計算が必要な分野での活用が期待されており、各国は、優れたスパコンの開発を国家戦略上の重要課題と位置付けている。

「米国が高性能コンピューティングの分野におけるリーダーであり続けることは、国家の安全や繁栄、経済競争力の観点から極めて重要なことだ。今回の資金援助によって、米国のテクノロジー企業が持つ技術力や専門性、リソースを集結させ、次世代のエクサスケール・スパコンの開発競争において優位に立つことができる」とDOEのリック・ペリー(Rick Perry)長官は述べている。

オバマ前政権は、2015年にエクサスケール・スパコンの開発を初めて宣言し、2023年の開発を目指していた。今回の資金援助により、完成予定が2021年に早まることになる。

2017年6月22日木曜日

人工知能とは

 人工知能の研究に携わる多くの研究者は、DNN(ディープラーニング、ディープニューラルネットワーク)やCNN(畳み込みニューラルネットワーク)などの基礎分野、あるいは画像認識や自然言語処理などの応用分野に従事しています。彼らはあらゆる場面で活躍する万能な人工知能の実現を研究しているわけではなく、知能の一領域における"機械による自動化"を研究しているのです。

 総務省が発表した「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究(2016年)」によると、人工知能に抱くイメージとして、日本では「コンピュータが人間のように見たり、聞いたり、話したりする技術」が最も多いのに対し、米国では「人間の脳の認知、判断などの機能を、人間の脳の仕組みとは異なる仕組みで実現する技術」という考えが最も多いことが分かっています。
 
 ここから分かるのは、人によっても、そしてその人が住む国によっても、人工知能とは何かという定義が異なります。こうした「人工知能とは何か」が定義できないさまざまな背景が、"言ったもの勝ち"な状況につながっているのかもしれません。

 人工知能というのは、造られた(Artificial)知能(Intelligence)という意味なので、まず「知能とは何か」を考える必要があるでしょう。それと同時に、「なぜ知性(Intellect)とは言わないのか」についても触れるべきだと思っています。「知能」も「知性」も人間に備わっているのに、なぜ知能のみが対象なのでしょうか。

 私はここに人工知能に対する誤解を解くヒントがあると思っています。知能と知性、意味が異なる2つの単語を混同し、同様に扱ってしまうことで、さまざまな"すれ違い"が起こっているのです。

 多摩大学大学院の教授で、元内閣官房参与の田坂広志氏は、知能を「答えのある問いに対して答えを見いだす能力」、知性は「答えのない問いに対して考え続ける能力」と定義しています(参照リンク)。

 答えのない問いを考え続ける——知性の具体的な例としては、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏の話が分かりやすいでしょう。彼は、必要な品物を、必要なときに、必要な量だけ在庫し、いつ何を買いに行っても品ぞろえ豊富なアメリカのスーパーマーケットを視察して、「ジャストインタイム」の仕組みを発展させたそうです。

 「どうすれば徹底的にムダを排除できるか?」という問いに、決まった答えはないでしょう。大野氏は答えを考え続けるために、目の前の問題の本質をつかみ、抽象化し、あらゆるフレームに当てはめたのです。その1つが、自動車の製造とはほぼ関係のないスーパーマーケットの仕組みでした。

 知性とは、途切れることなく(「こんなものだろう」と割り切ることなく)考え続けられるか、つまり、知識の共通点を発見し、ひも付ける汎用的思考と教養が問われます。雑談などがその代表例でしょう。今のところ、これは人間のほうが得意だと言えます。

 一方、決まっている答えを出す能力である知能は、知っているか知らないか、つまり、その問いの領域における知識量や奥深さが問われます。これは人間よりもコンピュータのほうが得意でしょう。これが知能と知性の違いです。

 人工知能を「答えのある問いに対し、答えを見いだすことを目的に、人が作り出したシステム」と定義します。

 1980年、アメリカの哲学者ジョン・サールは論文の中で、人工知能がもたらす技術革新と社会への貢献を認めて「弱いAI」としつつ、哲学的思考として、人間の知能を人工的に作ろうとする取り組みを「強いAI」として批判しました。

 以降、思考とは何か、意識とは何か、といった論争が繰り広げられることになります。これが有名な「強いAIと弱いAI」論争です。

 私は、ジョン・サールが警鐘を鳴らしたのは、人工的な「知性」の創造ではなかったか? と思っています。今、私たちが見聞きしている人工知能のほとんどは、膨大な知識から推論と問題解決を行うシステム、つまり弱いAIです。一方、答えが思い浮かばない問題(「人はなぜ生きるのか?」など)のために、膨大な知識を「知性」を駆使して思考し、自分なりの考えを述べる。これは強いAIでしょう。