「人生で一番高かった買い物は何ですか?」 こう聞かれたら、読者の皆さんはどう答えるだろうか。
PC、腕時計、クルマ……いろいろな答えがあると思うが、「家」と答える人も多いはず。人生の多くを占めるほど長期のローンを組み、数千万ものお金を支払うケースが一般的だが、その買い物が"正しい"かどうかを知る方法は意外と少ない。
「モノを買うときに、口コミやWebでの情報を確かめてから買う人は多いと思います。しかし、家というのは、人生で最も高い買い物になるにもかかわらず、お客さまが情報を手に入れるのが、非常に難しい商品なのです」
こう話すのは、不動産ベンチャー「ハウスマート」の代表、針山昌幸さんだ。IT化が遅れている不動産業界に疑問を抱き、IT企業の楽天に転職。そして、そこで得た経験を基に会社を立ち上げた。
"ユーザー本位"になれない不動産業界のビジネス構造
針山さんが「家」に興味を持ったのは小学生のとき。当時、団地に住んでいた針山さんが、中古の一軒家に引っ越したのがきっかけだ。
「あの頃はすごく狭い家に住んでいたんですよ。家の中で飛び跳ねると、上の階からも下の階からも怒られるのがとても嫌で。そこから父親が奮起して、中古の家を買ったんですね。それがとてもうれしかったのを覚えてます。いくら家の中で跳ねても怒られない(笑)。家は単に人が住む場所であるだけではなく、人の幸せと直結しているんだと感じました」(針山さん)
その後、大学時代に不動産資格の宅建を取得した針山さんは、不動産企業に就職。仕事自体は楽しかったものの、次第に業界が抱える問題点や、非効率的な点に気付くようになった。
「他の業界がすごいスピードで進化している中で、不動産販売は、いまだに電話とFAXがコミュニケーションの中心だったり、周知の方法が広告しかなかったりと、ビジネスの手法が変わっていない部分が多いです。そのために利益率が低く、売り手と買い手が持つ情報も非対称。お客さまが欲しい物件を探すよりも、売却の依頼を受けた物件を"さばく"という性格が強い業界構造なのです」(針山さん)
例えば、この物件が5000万円だったとして、それが適正な価格なのか。過去にはどのような価格で売買されてきたのか。他の商品では簡単に手に入る情報も、不動産では調べても出てこないため、営業マンの言うことを信じるしかない。「もっと別の方法があるのではないか」——そう考えた針山さんは、楽天へと転職。そこで大きなカルチャーショックを受けたという。
楽天での経験を基に「ハウスマート」を起業
針山さんが楽天で行った仕事は、マーケティングリサーチやWebプロモーション、システム改善など多岐にわたる。楽天会員から得られる膨大なデータを、どう事業に生かすかを考え続けた。
「不動産業界はトップダウンの風潮が強かったのですが、楽天はエンジニアが多かったこともあって自由闊達な雰囲気でした。ボトムアップで課題を解決する姿勢がありますし、ユーザーに支持されることをサービスの原則としています。不動産もこういうスタンスで臨めたらいいと思いましたね」(針山さん)
こうして楽天で得た経験を基に、針山さんはハウスマートを起業。昨今、不動産売買で伸びている「中古マンション」に目を付け、マンション売買Webサービス「カウル」を2016年3月にリリースした。彼が目指すのは、不動産業が抱える課題をITの力で解決し、真にユーザー本位で売買を進められるようにすることだ。
「新築マンションの価格は上がる一方で、マンション売買の主戦場は中古に移りつつあります。昔建てられた物件なので立地が良かったり、価格がリーズナブルだったりと良い物件が多いのですが、一方で探すのは非常に難しい。新築と比べて、横並びでの比較が難しく、営業の工数も多いです。そのため、過去にどういう売買がなされてきたかといったデータが重要になるのです」(針山さん)
人工知能で業務を自動化、コストダウンをユーザーへ還元
カウルの特徴は、これまで人力でやってきた業務をデータ分析を背景に自動化し、コストダウンを図った点にある。まず、サービスに属性情報や希望の情報を登録すると、サービス側が自動で提案してくれる。中古マンションが過去どのような価格で売られてきたか、いくらで賃貸に出されてきたかといったデータを公開して、ユーザーが見られるようにし、人工知能(機械学習)を用いて適正価格を算出している。
「弊社では今、売買価格のデータを1000万件程度持っており、立地条件や部屋の広さ、周辺物件との比較といった要素から、機械学習で適正価格を出しています。業務を自動化することでコストや仲介手数料を下げるとともに、見学や対面でのヒアリングを通じて、お客さまにとって最良の物件を精査するという、コンサルティング業務に営業の力を集中できる。不動産の新たな業態を作り出せると考えています」(針山さん)
業態としてはあくまで不動産仲介なので、街の不動産屋と仕事は大きく変わらない。しかし、物件の提案に加えて内覧依頼、質問、購入申し込みまで、全てサービス上のメッセンジャーでやりとりできるため、Webサービスやアプリだけで完結する。
基本的に自社物件を持たず、アプリと自社メディアを中心に集客。物件見学の申し込みもサービスを通じてユーザー自身が行うなど、徹底したインバウンド戦略でコストを下げ、プラットフォーマーとしての立ち位置を狙うビジネス構造だ。売買金額が大きければ、仲介手数料も膨らむため、カウルを使うと百万円単位で購入費用が下がるケースも珍しくない。サービス開始から2年弱で、会員数は1万2000人を突破。順調にユーザー数を増やしているという。
「カウル」を支えるエンジニアとの出会い
針山さんが楽天で得たのは、ITの知見だけではない。カウルを支える重要なエンジニアとの出会いもあった。同社CPO(=Chief Product Officer)の高松智明さんだ。高松さんは新卒でエンジニアとして楽天に入社し、ハウスマートに転職した。データ取得や名寄せの自動化、顧客ニーズと物件のマッチングなど、機械学習を使った効率化のキーパーソンだ。
楽天では、広告系のプラットフォーム開発を行っていた高松さん。Eコマースのデータを見て分析し、それをマーケティングに応用する業務を行っており、機械学習もそのころから使っていたという。
「ユーザーの行動情報や購買情報を分析してレコメンド型の広告を作ったり、広告を出した際にどれくらいの割合で買うのかという予測を作ったりするのに、機械学習を使っていました。Webページに掲載するのには問題がある商品画像をはじくをフィルターをディープラーニングで作ったこともありました。デジタルマーケティングの分野は、アルゴリズムがお金につながりやすい分野だと思うんです。そこで機械学習やディープラーニングをビジネスに生かすノウハウを学びました」(高松さん)
高松さんは、マンションの適正相場の予測や名寄せに加えて、画像検知の機械学習も検討している。反応が悪いアイキャッチ(トイレや台所)を自動で省き、クリック率を見ながら最適な画像を表示させるという。2018年1月には、賃貸と購入の想定価格を比較できる機能「カウル鑑定」をリリース予定だ。
「扱うデータは異なるものの、データを集めて整理して分析する——という点は楽天時代と変わらない」と高松さんは話す。もともとアプリレイヤーのエンジニアだったが、ハウスマートに来てからはインフラも担当。最初は慣れなかったが、徐々に慣れてきて、今はAWSのメリットを感じているという。
「楽天時代は会社の規模が大きいこともあり、分業が進んでいたことから、足並みをそろえる必要があったのですが、今はAWSなのでサーバを作るのも柔軟ですし、タイムラグもほとんどありません。システムはほとんどDockerなどを使って組んでいます。やれる環境が整えば、すぐにビジネスに取り掛かれるスピード感がありますね」(高松さん)
高松さんと出会ったことで、針山さんの考えも大きく変わった。「エンジニアのメンバーと一緒に働けるのが、とてもぜいたくな経験だと思っている」と彼は話す。
「僕自身はずっと物を売る方の人間だったので、サービス開発にはほとんど関わってこなかったのですが、お客さまのニーズや市場の声を基に、エンジニアのメンバーと『ああでもない、こうでもない』と議論して、サービスを形作っていくのは本当に面白いと、この会社で初めて実感しました」(針山さん)
ITの真の威力と、エンジニアのスゴさに気が付いた
不動産企業、楽天と複数の企業を渡り歩いてきた針山さんだが、環境が移っていく中でITに対する見方も変わってきたと話す。
「今になって、ITがビジネスに与えるインパクトがこんなにも大きいものなのだと感じています。楽天にいたころは、既存事業の規模が大きかったため、例えばコンバージョンが1%上がったといっても、あまり実感できない部分がありました。
それが今だと、物件の提案のアルゴリズムが改善されるだけで、内覧の申し込みがバンバン来るようになる。自分たちが考えたアイデアが、ITを使うことでお客さまに提供する価値としてダイレクトに響く。レバレッジが効くという点で技術のすさまじさを感じています」(針山さん)
IT活用の形が変わったのとともに、チームワークの形も変わった。楽天時代は部署で"縦割り"になる傾向が強かったが、今ではビジネスの知見を持った人と、エンジニアリングの知見を持った人、そしてデザインの知見を持った人が、膝を突き合わせて考えるチーム作りを進めている。
「ビジネスとテクノロジーとデザインをきっちり融合させていく。そのために一番大事なのは、エンジニアへのリスペクトだと思っています。日本の会社って、成功体験を蓄積して、そのベストプラクティスを学んだ人間がたくさんいる組織が強い、と考える風潮があると思っているのですが、技術革新のペースが上がっている今、昨日までの成功を捨て去って、新しい方法を考えることがどのビジネスでも重要なのですが、それを体現しているのがエンジニアだと思っています。
新しい技術を勉強したり、会社を超えて知識をシェアしたり、一番良い方法を突き詰めたり……これからの時代には必須の考え方だと思います。それを踏まえて、ビジネスサイドの人間もエンジニアも一緒になっていいものを作る意識が重要でしょう。だから非エンジニアであっても、最低限の技術の知識は必要だと考えています」(針山さん)
針山さん自身も技術を学び直し、今では非エンジニアの経営陣を全員プログラミングスクールに通わせているというから驚きだ。考え方を共有しやすくなるという効果は上がっており、今後は全社にこの取り組みを広げることを検討している。簡単なアプリを作れるレベルを目指させるそうだ。
「ユーザーを喜ばせることには全職種で意識をそろえられているので、無用な衝突が起きにくいですね。顧客満足とマネタイズのポイントがずれると、どっちを優先するかという議論も起こりがちですが、サービスの質を高めることが、顧客のニーズに合致して、収益にもつながる——ビジネスとしてこの3つが一直線に並んでいるため、お互いが協力し合えるのだと思いますね」(高松さん)
ビジネスとテクノロジーを融合させ、純粋に顧客のニーズだけに向き合えるサービスを作り上げていく。さまざまな企業を経て、ITの真の威力とエンジニアと協力する必要性に気付いた針山さん。急成長を続けるハウスマートの裏側には、デジタルビジネスで成功するためのヒントが詰まっている。
2017年12月20日水曜日
IBM、汎用量子コンピューティングシステムをクラウドで共有する「IBM Q Network」を発表
IBMは2017年12月14日(米国時間)、同社の20量子ビット汎用量子コンピューティングシステム「IBM Qシステム」を、特定の組織を対象にクラウドで利用可能にするネットワーク「IBM Q Network」を新たに設立した。同ネットワークには、JPMorgan Chase、Daimler、Samsung Electronics、JSR、Barclays、日立金属、本田技術研究所、長瀬産業の他、教育機関から慶應義塾大学、オークリッジ国立研究所、オックスフォード大学、メルボルン大学の計12組織が参加。量子コンピューティングの進化を目標に、IBMと連携する。
IBMは既に、実働する量子コンピューティングプロセッサとしては初となる50量子ビットのプロトタイププロセッサを構築。アクセス権をメンバーに提供する予定だ。次世代のIBM Qシステムにも、同プロトタイププロセッサを活用する。
IBM Q Networkのメンバーは、IBMの技術者と連携し、特定の業界向けに量子コンピューティングの活用分野を開拓する。例えば、JSRは、量子コンピューティングを生かしたエレクトロニクス、環境、エネルギーの新素材開発の可能性を探索する。IBMは、コンサルタントや技術者、業界の専門家集団による「IBM Qコンサルティング」を提供し、顧客の量子コンピューティング技術の活用をサポートするという。
IBM ResearchでAIおよびIBM Q担当バイスプレジデントを務めるDario Gil氏は、「IBMは、今後数年間を『商用量子コンピューティング時代の幕開け』と考えている。顧客と緊密に連携し、量子コンピューティングが、あらゆる規模の金融サービス、自動車、化学などの業界に適用可能になり、これまで解決できなかった問題に対処できるよう、協力して探求を始めた。量子コンピューティングのメリットを生かせる分野を発見し、商業的、学術的、社会的に将来の利益につながる道筋を得られるだろう」と述べている。
IBMは、量子コンピューティングシステムを容易に利用できるようにする取り組み「IBM Q Network ハブ」も開設する。IBM Q Network ハブは、IBM Qシステムをオンラインで使用可能にし、量子コンピューティングの学習やスキル開発、実装を促進する。米国のIBM Research、慶應義塾大学、米国のオークリッジ国立研究所、英国のオックスフォード大学、オーストラリアのメルボルン大学に設置されるという。
IBMは既に、実働する量子コンピューティングプロセッサとしては初となる50量子ビットのプロトタイププロセッサを構築。アクセス権をメンバーに提供する予定だ。次世代のIBM Qシステムにも、同プロトタイププロセッサを活用する。
IBM Q Networkのメンバーは、IBMの技術者と連携し、特定の業界向けに量子コンピューティングの活用分野を開拓する。例えば、JSRは、量子コンピューティングを生かしたエレクトロニクス、環境、エネルギーの新素材開発の可能性を探索する。IBMは、コンサルタントや技術者、業界の専門家集団による「IBM Qコンサルティング」を提供し、顧客の量子コンピューティング技術の活用をサポートするという。
IBM ResearchでAIおよびIBM Q担当バイスプレジデントを務めるDario Gil氏は、「IBMは、今後数年間を『商用量子コンピューティング時代の幕開け』と考えている。顧客と緊密に連携し、量子コンピューティングが、あらゆる規模の金融サービス、自動車、化学などの業界に適用可能になり、これまで解決できなかった問題に対処できるよう、協力して探求を始めた。量子コンピューティングのメリットを生かせる分野を発見し、商業的、学術的、社会的に将来の利益につながる道筋を得られるだろう」と述べている。
IBMは、量子コンピューティングシステムを容易に利用できるようにする取り組み「IBM Q Network ハブ」も開設する。IBM Q Network ハブは、IBM Qシステムをオンラインで使用可能にし、量子コンピューティングの学習やスキル開発、実装を促進する。米国のIBM Research、慶應義塾大学、米国のオークリッジ国立研究所、英国のオックスフォード大学、オーストラリアのメルボルン大学に設置されるという。
2017年12月19日火曜日
ExcelにPythonの搭載検討、Microsoftがアンケート実施中
米Microsoftは12月15日(米国時間)から、Excelにプログラミング言語「Python」を搭載するかを検討するため、ユーザー向けにアンケートを実施している。「需要についてよりよく理解するため、情報を集めたい」という。
2015年11月に提案された「Excelで、スクリプティングやフィールド関数にPythonが使えるようにならないだろうか」という要望には、17年12月18日現在、約4000票が集まっている。デスクトップアプリケーションの要望の中では最も多くのユーザーが支持している。
これを受け、Excelチームは15日に「このトピックについての継続的な熱情に感謝します」として、ExcelがPythonを搭載したら何に使うか、どんな影響があるかなどを問うアンケートを設置した。
Pythonは、機械学習やデータ分析の分野で主に使われるプログラミング言語。ExcelにPythonが搭載されれば、Excelでより高度なデータ分析やビジュアル化が可能になるという見方もある。
2015年11月に提案された「Excelで、スクリプティングやフィールド関数にPythonが使えるようにならないだろうか」という要望には、17年12月18日現在、約4000票が集まっている。デスクトップアプリケーションの要望の中では最も多くのユーザーが支持している。
これを受け、Excelチームは15日に「このトピックについての継続的な熱情に感謝します」として、ExcelがPythonを搭載したら何に使うか、どんな影響があるかなどを問うアンケートを設置した。
Pythonは、機械学習やデータ分析の分野で主に使われるプログラミング言語。ExcelにPythonが搭載されれば、Excelでより高度なデータ分析やビジュアル化が可能になるという見方もある。
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