「3Dプリントを出力するだけでなく、インプットする側でビジネスをできないかと考えていた」———足と靴の3Dデータを使って、女性におすすめのパンプスをマッチングするシステムを開発したフリックフィットの廣橋博仁社長はこう話す。かつて経営していた3Dプリンティング企業で人体のスキャニングに取り組んでいた際、「ECサイトなどでは試着ができない。この技術で解決できないか」と考えていたのが、マッチングシステム開発のきっかけになったという。
ヒールで傾斜がついていたり、スニーカーや革靴よりも足を固定する部分が少なかったりと、何かと選ぶのが難しいパンプスから着手したのは、「難しいからこそ靴探しの需要がある」と考えたから。「売り場の要望としても多かったし、知り合いの女性もECでは靴が買えないと言っていた。だから、会社のブランディングも含めて一旦『女性向け』でやろうと考えた」(廣橋社長)
●顧客の足と靴をマッチングする仕組み
現在、同社のマッチングシステムは、靴と足をそれぞれ専用の3Dスキャナーで測定し、そのデータをクラウドに送ってAIでマッチングしている。靴の計測には、フリックフィットが独自開発した「シューデジタイザ」という3Dスキャナーを使用する。靴の片方を入れると、レーザーセンサーが下りてきて靴を内側から360度スキャン。そのデータをクラウドに送信してノイズ除去などの処理をすることで、マッチングのためのデータが完成するという。1回の計測にかかる時間は3分半ほどだ。
一方、足を計測するのは米Intelのデプス(深度)カメラ技術「RealSense」を活用した3Dスキャナー「フットデジタイザ」だ。こちらは靴を脱いで上に乗ると、取り付けた4台のカメラが15秒ほどで両足をスキャンし、つま先からくるぶしあたりまでの3Dデータを作成してくれる。女性向けに作成したため、現在計測できる足のサイズは26センチほどまでだが、30センチまで測定可能な男性向けのフットデジタイザも開発しているという。
フットデジタイザで測定した足のデータをクラウドに送信すると、AIが先にアップしてあった靴のデータと照らし合わせて「おすすめの靴」をレコメンド。合っている靴の判定には機械学習を活用した他、プロのシューフィッターの協力も得たという。
マッチングシステムはまず靴売り場の販売員をサポートするツールとして展開予定で、今のところは販売員が最終的な判断や調整を行うことを前提としている。例えば靴選びに難航する「甲が高い」「足の幅が広い」といった悩みを持っている人の場合、足の形状に近いものの中から少し大きめの靴を候補に上げる。左右の足で大きさが異なる場合、左右それぞれ異なるサイズを販売できる店舗ならそれぞれの足に合うサイズを、百貨店など基本的に左右同じサイズしか販売していないところでは大きい方に合わせたものをマッチングする。
ちなみに記者がフットデジタイザで足を測定したところ、長さは左が23.0センチで左は23.5センチ、幅は左が7.9センチで右は8.8センチと大きく差がつく結果に。足幅が狭いこともあり普段履いている靴は22.5センチのものがほとんどだが、マッチングされた靴は23.5センチのものが中心だったため、特に左足は調整が必要になりそうだ。
サイズや幅が合わないといった問題については、マッチング結果を表示するアプリでも対応。マッチングした結果をベースに「同じサイズで幅が違うもの」や「同じ幅(ワイズ)でサイズが違うもの」などを探すことができる。広報担当の天野良香さんは「さまざまな靴をデザインで選んでも、実際に履いてみないと合うか、合わないかが分からない。その無駄を省きたい」と話している。
今後は実店舗に展開して多くの人に試してもらい、レコメンドのアルゴリズム改善を図るほか、シューデジタイザの計測時間の短縮など、さまざまな改良を加えていくという。システム開発に携わったエンジニアの張朕檳さんは「シューフィッターの経験を数値化していく。"職人の答え"を出せるようにするのがわれわれの目標」と話す。
また、廣橋社長は「まだスタート地点に立ったという感覚。ようやくお披露目できるところまできた」と話す。計測方法の改良も検討しており、現在は足を地面につけたフラットな状態で計測しているが、将来的には「パンプスを履いている時のように、かかとを上げた状態でスキャンする」「お客さんが履いてきた靴をスキャンする」といった方法も考えているという。
「お客さんは靴を形状だけで選んでいるわけではない。マッチングサービスを、色やデザインなどと同じ『靴選びの基準』の1つにできたら」(廣橋社長)
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