画像診断でがんなど病変の見落としが続発している問題で、見落としは医師の経験年数に関係なく発生していることが22日、医療事故情報を収集する日本医療機能評価機構の調べで分かった。背景には、画像診断技術が高度化したことで医師が扱う情報量が著しく増加し、ベテラン医師でも追いつけていない現状がある。人の目に全面的に頼らず、人工知能(AI)による診断開発も進んでおり、厚生労働省は抜本的な再発防止対策に乗り出した。
検診年420万人
同機構は、平成27〜29年の3年間に発生した32件の画像診断による病変見落としを調査。医師に職種経験年数を聞いたところ(複数人介在を含む)、1〜5年=7人▽6〜10年=6人▽11〜15年=7人▽16〜20年=4人▽21〜25年=4人▽26〜30年=7人と、ほとんど偏りはなかった。
32件のうち「撮影目的の部位のみ確認した」が27件で、「医師の目が広範囲に届いていなかった」と指摘する。
こうした病変の見落としは近年、相次いでいる。東京都杉並区では40代女性が肺がん検診でがんを見落とされ、6月に死亡した。市区町村が公的資金で行う肺がんの検診は40歳以上が対象で年1回行われる。厚労省によると、肺がん検診は27年度に全国約420万人が受診している。
1回で数百枚撮影
「画像診断の検査数が増加し、診断書の中に記載されている情報量が多く、主治医自身がその結果を消化しきれなくなっている」
日本医学放射線学会は7月19日、異例の見解を出した。見落としの要因は画像診断を担う放射線科医と主治医の連携不足などに加え、医療の高度化に伴う情報量の増加もあるというのだ。特に画像診断の検査では息を1回止める間に数百枚以上の撮影が可能となったが、主治医が自分の担当領域を見ることに腐心し、十分な知識のない他の領域に映った病変の発見に及ばない恐れも出ている。
東京慈恵医大病院では病変見落としで患者が死亡したケースを踏まえ、診断報告書を主治医が確認し、必要な対応をしたかスタッフが2回、医師に確認する仕組みを導入した。今春からさらに診断報告書を全患者に手渡すことも始めた。
ただ、同病院だけで年間約8万5千件の画像診断があり、情報処理には時間がかかる。名古屋大病院の長尾能雅(よしまさ)教授(医療安全)は「技術向上で異常が見つかりやすくなった半面、フォローするシステムが追いついていない」と指摘する。
0.004秒判断
理化学研究所と国立がん研究センターの研究グループは7月20日、米ハワイの学会で、AIを使って早期胃がんを発見することに成功したと発表した。
理研光量子工学研究センターの横田秀夫チームリーダーによると、早期胃がんは炎症との判別が難しく、画像では専門医でも発見しにくいというが、「熟練医に迫るところまで精度を高めた」。がんの80%を見つけ、かかった時間はわずか0.004秒だった。
医療系IT企業「エムスリー」(東京)などは医療機関のニーズが増えているとして、今秋までにAI診断の支援システムの構築を目指している。
ただ、将来的にAIが導入されても、AIが指摘したことを患者に伝えるのは医師だ。人為的なミスを見逃さない包括的なシステムが求められている。
同機構や厚労省は24年から複数回、病変見落としを注意喚起する文書を発布。それでも続発していることから、厚労省は適切なシステムの構築に向けて今後2年間の研究調査を専門家に依頼している。
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