2012年4月25日水曜日

スマホアプリで本当に週末起業できるのか?

 「こんなアプリがあったらいいのにな…。もしナイなら、自分で作ってみようか。もしかしたらヒットするかも!ヒットしたら起業も夢じゃない!!」——。なんてことを、自分のスマートフォンをいじりながら夢想してみたことはないだろうか。何を隠そう私も何度か経験がある。

 スマホユーザーにそう思わせるのには理由がある。

 第一は、スマホアプリ制作のハードルが年々下がってきていること。iOSやAndroid向けの基本的な開発ツールキットは無料で公開されており、バリバリの3Dゲームを開発できるゲームエンジンですら、個人は無料で利用できる。プログラミングでちょっと腕に覚えがある人なら、簡単に始められる環境が整ってきているのだ。

 第二に、スマホアプリビジネスに関する情報がふんだんにそろってきたことだ。書店に並んでいる開発ノウハウ本、もしくは開発導入サイトなどで情報を仕入れていけば、スマホアプリを開発し、それを世に送り出すところまでの最低限の情報は簡単に入手できる。後は、自分のアイデアとトライする気持ちがそろえば、すぐにでもスマホビジネスを進められるというわけだ。

 ただ、現実はそう甘くない。オランダの調査会社ディスティモ(Distimo)によると、2011年末の段階でiPhoneとiPadアプリを足すと約50万超、Androidアプリで約35万超のアプリがマーケットに存在しているという。特にAndroidアプリは前年比で2.3倍程度も増えており、この増加傾向はしばらく続きそうだ。せっかく新しいアプリを作っても、50万ものアプリ群の中に紛れてしまい、利用者が見つけてくれるのは容易なことではない。

 スマホ黎明期は、素人やプロとして活躍する個人がアイデア勝負で作ったアプリが多く、スマッシュヒットもこうした中から生まれていた。そのうち、そうした成功事例を参考に、企業が組織的に参入する例が増え、アプリの質もグッと高まった。現在のApp StoreやGoogle Play(旧Androidマーケット)で、有名ゲームメーカーやIT企業がダウンロードランキング上位を占めているのを見ると、もはや個人に手が届かないレベルになってしまったように感じる。「スマホでビジネスできている個人はごく一部のはず。アフィリエイトの方がよっぽど儲かる」と断言する業界関係者もいるほどだ。

 だからといって、目の前に広がる新しいフロンティアがあるのに、早々に諦めてしまっていいのだろうか。ビジネスの成功率で見たら、年々厳しくなっていくのは仕方ないが、そのチャンスは大企業でも、個人であっても等しく同じだ。

 スマホビジネスとは少し違うが、Pinterest(ピンタレスト) <http://pinterest.com/> という画像共有型SNSサイトをご存じだろうか。2011年末から、米国で急激に利用者が伸びているサービスで、米調査会社Experian Hitwiseによると、2012年1月には1週間に1700万人が閲覧したという。画面をピンボード(メモや写真を貼り付けるコルクボードのようなモノ)に見立てて、お気に入りの写真をネットで見つけたらそのまま貼り付けることができる。

 女性ユーザーが多いとされ、彼女たちの目的は単にお気に入りの写真を共有するだけではない。自分の好みの洋服やインテリア、化粧品などの"美しい写真"を並べることで、おしゃれな"ECサイト"や"ブティック"を作ってみたいという欲求を満たすことに成功している。国内では、芸者東京エンターテインメントが開発し、ヒットしたソーシャルゲーム「おみせやさん <http://www.geishatokyo.com/mixiapp/playshop/> 」は、同種のニーズを満たしている。ユーザー同士がオープンした"自分のお店"を見せ合い、自分のセンスや興味などについて共感できるのがウリだ。

 2010年にサービス開始したPinterestだが、2011年夏以降に急激にユーザーが増え、今や世界で注目される新サービスにまで成長した。世の中に様々なWebサービスがあふれていても、Pinterestのような新しい芽は常に登場し、成功できている。それはスマホビジネスであっても変わらない。自分のアイデアを信じて、成功に近づけるための正しい努力を続けられれば、そのチャンスは平等に与えられるのだ。

 そこで、ぶつかるのが「正しい努力」は何なのか、ということだ。独力でがむしゃらに突っ走っても、それが正しい方向とは限らない。成功率を少しでも上昇できるようにするためには、知識と経験を持った周囲からの"目"が何よりも大切だ。「なぜそのアプリがウケるのか」「どうやってユーザーを獲得するつもりなのか」「収益をどうやって確保できそうなのか」「事業拡大のための資金調達はどうするのか」——といった厳しい批判と検証を乗り越えなければ、まず成功はありえない。そうした企画を磨く場が、企業ではある程度用意されている。だからこそ、売れるアプリを作り続けられるのだ。

 翻って、個人はどうすればいいのだろうか。答えは一つ。同じ方向を向いて進んでいる"仲間"を作ることだ。スマホビジネスで一旗揚げたいと考えている人同士で、アイデアを批判し合い、磨き合うことで、自分に何が足りないのか、この先どうすれば良いのか、といったことを話し合う。そういう場ができれば、成功の確率は高くなる。

 世の中にはビジネススタートアップ(起業)に関するビジネススクールや相談会、コンテストなどがある。Infinity VenturesやOnlab(デジタルガレージ)、Samurai Incubate、IMJ(ブレークスルーキャンプ2012)といった有名なイベントで、新しい才能を見出したいベンチャーキャピタルやインキュベータが起業への支援をしている。そうした場所で自分の力を試しつつ、仲間を見つけ出すこともできる。また、日本Androidの会のようなスマホ技術者のコミュニティに参加すれば、自分には足りない能力を持った人的ネットワークを広げられる。

 また最近では、学生向けのビジネスコンテストなども非常に盛んだ。投資家や観客の前で、自らのビジネスプランを発表し、そのプレゼンテーションでどれだけの人の心を惹きつけられるかを競う。企業に就職しながらも、副業としてビジネスコンテストで磨いたプランを起業するという若者も増えている。アイデアは自分だけで温めるのではなく、オープンの場で公開して磨くことが、アイデアを完成に近づける最大の特効薬となる。そんな時代がスタートしている。

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