2018年1月5日金曜日

2018年、クラウドが主役の世界でハードウェアの価値はどう変わるか

 今さら……と思うかもしれないが、まずは人とコンピュータの関わりについて当たり前のこと、そして少しばかり昔の話から書き始めたい。

 時代とともに「パーソナルコンピューティングの定義が変化してきた結果」として、PC、タブレット、スマートフォン、それぞれの位置付けが変化してきた。その背景には「個人」と「コンピュータ」を掛け合わせたときに求められる機能が、どんどんインターネットの向こう側……すなわちクラウドに染みだしている流れがある。

 もちろん、「現時点」という時間軸では、デバイスごとの性能や機能にも差異化要因はある。そうでなければ、「どれを買っても同じ」になるからだ。まだそこまでは進んでいないが、パーソナルコンピューティングの核となる部分がデバイス側のコンピュータの中にあるのか、それともクラウドを構成するサーバコンピュータ側にあるのか。そこを真剣に考え始めると、既にかなりの部分がクラウド側にあるようにも思える。

 それは「2017年は珍しく(27年ぶりに)PCを買わなかった」という個人的な出来事にも少しだけ関連する話題だ。

●時間をかけて進んできたクラウドシフトの影響

 アプリケーションの核がネットワーク側に向かうといっても、いきなり全てがネットワークサービスになるわけではない。始まりは2000年ぐらいだったから、17年ほどの時間をかけてゆったりとアプリケーションのサービス化が進み、現在もメガトレンドとして業界は動き続けている。

 そのことを最初に実感したのは、実は初代「Mac mini」が2005年に発売されたときのことだ。バージョンアップを重ねて、そこそこ使えるようになりつつあったMac OS Xを試すため、低廉で小さなMac miniを買ってみたのである。すると、すぐに慣れてしまい、デスクではMac、出先では薄軽モバイルPCの多いWindowsというマルチプラットフォーム体制となった。

 すぐに慣れることができたのは、必要なアプリケーションがMacでもそろう上、ネットワークサービスを通じての連携などが、特に問題なく行えたからに他ならない。今では想像もできないが、90年代のMacは得意分野はあったもののソフトウェアの網羅度が低く、一度Windows PCで環境を整えてしまうとMacに引っ越すことは困難だった。

 ところが実際に運用を始めてみると、意外にもMac+Windowsを併用しても困らなかったのだ。時代がネットワークサービス……当時クラウドという言葉はなかったが、クラウド時代へのシフトが確実に進み、アプリケーションはソフトウェアから「ソフトウェア+サービス」の時代へと移り、その結果、特定のプラットフォームへの依存度が下がっていたからだ。

 そして90年代には活発だった「MacとWindowsのどちらが優れているか」という議論も、徐々になくなっていった(2006年にIntelプロセッサ搭載のMac、およびWindows OSをMacで動かせるBoot Campが登場したことも関係するが)。

 その気になればMacとWindowsの両プラットフォームを交互に使っても、あるいは片方から片方に乗り換えても(操作の慣れなどを除けば)少しばかり頭をリセットするだけで同じように使えてしまう。プラットフォーム乗り換えへのハードルが下がったことで、プラットフォーム選択の重みも軽くなったのだ。

 こうしたことは「クラウド時代のPCユーザー」には当たり前のことだ。しかしコンピュータ業界全体がWindowsへと傾倒し、WindowsのAPIとMicrosoftの開発ツールへの依存度が高かった時代を経験している身としては、ほぼ死にかけていたMacというプラットフォームに活力が戻り、WindowsでもMacでも、それどころか今やiOSやAndroidベースの端末でも不自由なく仕事ができている現状にあらためて驚いている。

 そして、その背景にあるのがクラウドへとアプリケーション価値が吸い込まれる長期トレンドというわけだ。

 視点を変えて俯瞰(ふかん)すると、Chromebookで十分という層も、スマートフォンで全部をこなしてしまうという層も、はたまたタブレット向けプロセッサを用いた薄軽ノートPCのユーザー層も、さらにはx86エミュレータを搭載するARM版Windows 10に興味を持つ層も、全てはこうした時代の流れが生んだものだと言える。

 さらにもう少し視点を変えると、その視野には「スマートスピーカー」のトレンドも入ってくる。

 米国市場の約1年遅れで日本でも流行し始めたスマートスピーカーだが、現時点での実用度はともかく、クラウドの中で多様に存在しているアプリケーションへのPC、スマートフォン、タブレットとは別の接触点として現れた製品ジャンルとも言えるからだ。

 2017年はよく「スマートスピーカーははやるのか」という質問を一般系媒体の編集者などからされたのだが、スマートスピーカーがはやるかどうかよりも、パーソナルコンピューティングの中で生まれた多様なアプリケーションがクラウドへと流れ込んだ昨今、クラウド内のアプリケーションと人間の間を取り持つ機器は多様化が今後も進んでいくと予想する。

●クラウドシフトで変わるデバイスの価値

 このように順を追っていくと、今後、伸びていくメーカーやブランドは、「ユーザーインタフェース技術に長けたところ」、あるいは「最終製品でエンドユーザーとの関係構築に長けたところ」になってくる。

 そもそもAppleが長期的に伸びてきたのは、ユーザー体験の演出、インタフェース設計の良さが理由だった。その後、ものづくりの面でも他社にないアプローチで品質面でも他社を突き放したが、Appleの品質が改善したのはMacで言えばアルミ削り出し筐体のユニボディーを始めてから、iPhoneで言えば「iPhone 4」の世代からだった。

 一方でソニーは戦略の喪失とユーザー体験追求の甘さ、コストダウンによる影響でガラクタを量産していたが、現在の平井社長体制になってからは「ラストワンインチ」をキーワードに、手に触れる商品の質感やデザイン、ユーザーインタフェースに力を入れるようになり業績を急回復させている。

 商品が単純に良くなったというだけでなく、パーソナルコンピューティング、デジタル製品などの市場全体がクラウドシフトになじんできた結果、クラウドと利用者の間をつなぐ製品の体験へと、消費者の求める価値観が変化したと考えるべきだと思う。

 以前ならば、細かな実装の良しあしよりも、少しでも多くの性能を、機能を求めていたが、アプリケーションのコアがクラウドにあるならば、ユーザーが直接触れる製品に求めるのは体験の質である。

 PCの場合、元よりコンピュータとしてのハードウェアはプラットフォーム、フレームワークがしっかりしているため、プロセッサのパフォーマンスなどの要素では差異化がしにくくなる。「コスト対パフォーマンス」の関係性がプラットフォームに依存しているからだ。

 その上で差異化できるとしたら、ユーザーインタフェースやモノとしての質感など、よりエンドユーザーに近い部分だ。以前、Intelのプラットフォーム、プロセッサなどのブランド化が進んだことがあったが、現在はそのブランドシールの意味も希薄化してきていないだろうか。

 どんなプラットフォームを選択しているかよりも、その製品自身の作り、位置付け、狙いなどの方がずっと製品を選ぶ上で重要になってきているからだと思う。そうした観点からすると、あるいは2018年は「新しいPCを買いたい」と思える、新コンセプトの商品が登場することに期待が持てるのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿