2018年2月28日水曜日

日本における「人工知能」のバズワード化

日本における「人工知能」のバズワード化
市場調査会社であるガートナー社は、技術の成熟度と普及を俯瞰するマップである「ハイプ・サイクル」を毎年発表しています。技術の成熟度と、社会からの期待度によって、様々な技術をマッピングしたハイプ・サイクルにおいて、「人工知能」の扱いは、日本と海外で全く異なります。
実は、両者を比較すると、海外に比べ、日本では「人工知能」がバズワード化している可能性が高いことがみてとれます。人工知能に対する認識・理解度の違いを、ハイプ・サイクルを切り口に、ご紹介します。
2016年度10月の日本版の「ハイプ・サイクル」では、「人工知能」が「過度な期待のピーク期」にあると位置付けてられています。(下図の左側、山の頂点にキーワードが記載されています)一方で、同年度の米国版の「ハイプ・サイクル」では、「人工知能(Artificial Intelligence)」というキーワードはどこにも存在しません。米国版では代わりに、「人工知能」に関連するワードとして、「Machine Learning(機械学習)」が「過度な期待のピーク期」にあると位置付けてられています。(下図の右側を参照)
Fig 1. 2016年度日本版()・米国版()の「ハイプ・サイクル」 1 2
なぜ、米国版のハイプ・サイクルには「人工知能」というキーワードが存在しないのでしょうか。そもそも「人工知能」は「人間と同等(あるいはそれ以上)の処理をこなすことができるテクノロジ」という曖昧な概念です。「人工知能」と呼ばれる技術要素群は、下図に示すとおり、機械学習や深層学習などの個別技術を包含する概念なのです。
Fig 2. 「人工知能」の発展の歴史 3
一方で、日本版の「ハイプ・サイクル」には「人工知能」のみが存在し、「機械学習」や「深層学習」という個別技術を示すキーワードが存在しません。ハイプ・サイクル自体は、平均1015年程度IT業界に携わっている経験豊富な1500名以上のアナリスト・コンサルタントを含む1万人弱の従業員が在籍しているというガートナー社の規模の大きさを活かして、世界90カ国以上の1万を超える組織に情報提供をしていく中で、世の中に普及しているキーワードを収集してくるため、そこに調査会社の恣意性が入ることはあまり考えられません。これは、日本において「人工知能」の技術の詳細があまり理解されていないことを反映しているのではないでしょうか。
 
技術の詳細の理解なくして、人工知能を用いた事業は展開できない
「人工知能」の技術の詳細を理解せず、事業を展開していくと適切なサービス設計ができない、優秀なエンジニアの確保ができない等の弊害が生じ、企業の競争力が低下していく可能性がガートナー社により指摘されています。4
日本ではバズワードとして「人工知能」が受け入れられた結果、「どの分野にも適応できる汎用人工知能が存在している」、「以前から存在するサービスでも『人工知能』と名前がつくと、そのように見えてしまう」といったような理解をされる方が少なくないようです。技術の理解が不十分なまま、「人工知能」というキーワードのみがバズワード化し、機械学習や深層学習の技術を活用したサービスへの投資が遅れてしまうことも可能性としてはゼロではありません。
日本において、機械学習エンジニアの重要性が理解されておらず、日本の機械学習エンジニアの平均年収は650万円程度5である一方、米国の機械学習エンジニアの平均年収は1600万円程度6と、給与額が米国のおよそ半分未満という点も、危惧すべき状況です。
実際に、ガートナー社はこういった日本の現状を踏まえ、「2019年までに、60%の日本企業は新たなアルゴリズム開発や人工知能的なものにチャレンジするが、その80%がテクノロジではなく、人材の問題で行き詰まる」という展望と、併せて「日本企業は高度なテクノロジ人材を獲得すべくハイスキル/ハイリターンを前提にした中長期戦略を展開すべき」という発表をしています。4
 
医療分野では、技術と医療の双方で深い理解を持ち事業を展開すべき
機械学習や深層学習の技術を適切に活用し、事業展開していくためには、技術と事業の双方で深い理解を持つ人材が不可欠です。特に医療分野においては、誤った技術の応用により、取り返しのつかない自体につながる可能性も大きく、より慎重な取り組みが必要です。
医療従事者やヘルスケア関連事業の経験者と、機械学習・深層学習に知見を持つ技術者がうまく協調してサービス開発に取り組んでいくことが、一つの解決策になるのかもしれません。
 
 

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