2018年4月4日水曜日

AIが進化すれば、人は30歳から老けなくなる

今回のことば

 「人間の身体のなかにチップが入り、デジタル化したら、30歳以上は歳を取らなくてすむようになる。AIが人の加齢を止めることができる」(物理学者のミチオ・カク氏)

 IBMが米ラスベガスで開催した年次イベント「Think 2018」は、全世界から4万人以上の顧客、ビジネスパートナーが参加。日本からも約500人が参加し、同社のクラウドやAIへの取り組み、最新技術などについて発表があった。会期初日にはIBMリサーチが、今後5年以内に砂粒よりも小さいコンピューターが登場し、日用品やデバイスに埋め込める世界が到来するといった予測を発表し、来場者の関心を集めていた。

 近未来の話題で同様に注目を集めたのが、会期2日目の物理学者のミチオ・カク氏の講演だ。

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 米IBM Watson & Cloudプラットフォーム担当シニアバイスプレジデントのデビット・ケニー氏が、最新刊のベストセラー『THE FUTURE OF HUMANITY』の著作に触れながら、「未来を現実にすることを伝えるには最適なスピーカー」とカク氏を紹介。登壇したカク氏は冒頭「これまで半世紀に渡って業界を引っ張ってきた半導体の世界が終わる。つまり、シリコンバレーの半分の企業が、錆びたベルトのようになってしまう。これは、マイクロチップの時代が終わることではなく、新たな時代が始まるということが大切である。AIや神経ネットワークが牽引し、コンピューターと脳のインターフェースが始まり、量子コンピューターが登場することになる」と切り出した。

 講演のなかでは、Facebookのマーク・ザッカーバーグ会長兼CEOが、「AIやロボットの広がりによって、新たな雇用や新たなチャンスが生まれ、ビリオネラー(10億万ドル長者)が生まれる」と予言しているのに対して、Teslaのイーロン・マスクCEOは、「人間の存在そのものを脅かすものになる」と発言していることに触れ、「この予言は、どちらが正しいのか。私の個人的な見解では、短期的にはザッカーバーグが正しい。これまでにない新たな産業が生まれ、新たな雇用やチャンスが生まれ、経済を刺激することになる。ロボティクス産業は、自動車産業の規模を超えるのは明らかだ。それは、クルマそのものがロボット化するからである。自動車に話しかけたり、議論したりできる」としたものの、「だが、長期的にみて、ロボットは人類の存在を脅かすものになるだろう」とも述べた。

今のロボットはゴキブリ並みだが、今世紀末には危険な存在に

 カク氏は、ロボットが人類を脅かす存在になる転換期として「それはロボットが自認識を持つ時である」と述べた。

 「いまのロボットたちは、自分たちがロボットだとは認識していない。ロボットはマシンであり、考えたり、思考したりしているわけではなく、自認識がない。いま、最も進んだロボットであっても、知識レベルはゴキブリ程度である。ゴキブリをロボット化したぐらいのものである」としながらも、「しかし、時間が経つに連れて、ネズミぐらいの頭脳や、うさぎレベルの頭脳を持つようになるだろう。そして、次には、猫や犬ぐらいになり、さらには、猿と同じぐらいの知性を持つようになるはずだ」とする。

 犬や猿の知能まで来ると、ロボットの存在について、話の次元が違ってくるという。

 「犬と猿には自意識がある。犬はまだ混乱しており、人間のことも犬の仲間だと勘違いしており、ご主人を一番偉い犬だと思っている。それに対して、猿は、自分たちは人間でないということがわかっている」とし、「もし、ロボットが猿のようなレベルで自意識を持つようになったら、脳にチップを入れて悪い考えを持ち出すロボットがいた場合には、すぐにシャットダウンしなくてはならない」とする。

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 そして、「それが訪れるのは、今世紀末になる。今世紀の終わりぐらいになると、ロボットは危険な存在になるかもしれない。人類にとって、まだまだ準備の時間がたくさんあることは幸いだ」とした。

 一方で、「元MIT研究所の所長によると、ガレージから知的レベルを持ったロボットを作り上げるのは、ハリケーンの瓦礫からボーイング747を作り上げるよりも確率が低い」というジョークも付け加えてみせた。

今後は人間がデジタル化する

 物理学者によって生まれた産業や社会の変化には、4つの波があったという。

 ひとつは蒸気である。熱力学を活用して蒸気機関が生み出され、機械が動くようになった。それから80年を経過して、物理学者は電気と磁気を発明し、ラジオやテレビが生まれた。さらにその80年後にはトランジスタやレーザーが発明され、宇宙プログラムが開発されたことで、ハイテクが加速したという。

 「では、第4の波はなにか。それは人工知能、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーである」と、カク氏は定義する。

 第4の波で起こる未来は驚きだ。

 カク氏は「すでにインターネットを通じて、遠隔手術ができたり、手術中に医者がWatsonなどのAIに質問したりできる。AIが手術室に浸透している」と前置きしながら、「これからは、人間の身体のデジタル化が進むだろう。たとえばロボットの一部を自分の身体のなかに入れることもできるようになる。小さなチップ入りのアスピリンのようなもののなかには、磁石とカメラが入っている。それを飲み込むと、カプセルが身体のなかを流れ、体内の写真を撮影して送ってくれる。直腸検査がこれでできるようになる。文字どおり、身体のなかにIntel Insideの状況が生まれることになる」とした。

AIから人工臓器も作れるようになる

 さらに「人間の身体がデジタル化されることが、次のコンピューターテクノロジーの突破口になる」とし、「身体がデジタル化して、そこからさまざまな情報が発信されれば、AI技術との組み合わせで、加齢の問題さえも解決することができるだろう」とする。

 すでに高齢者の遺伝子と、若者の遺伝子の差を比較することで、加齢に影響する遺伝子が60個あることがわかっているという。

 「人間の身体において、クルマのエンジンにあたるのがミトコンドリアである。これが一番壊れやすい。ミトコンドリアを調べると、なにが問題で加齢をするのか、老化がはじまる原因はなにかもわかるようになる。デジタル化したら、加齢問題を解決するヒントが生まれるだろう。AIが若さの源泉になるかもしれない。その結果、30歳になったら、それ以上年を取らないという時代がやってくるかもしれない」とする。

 さらに、こうも語る。

 「AIなどの技術を使って臓器なども作ることができる。細胞をプラスチックの容器のなかに入れておけば、ひとつの細胞から完全な耳や皮膚、骨、心臓弁も作れるようになる。若くて新しいものに交換することもできる。それを可能にするのはAIである」とする。

 だが、唯一作ることができないのが肝臓だという。

 「アルコールを飲む人は注意してほしい。もしかしたら、肝臓に影響があることを避けて、心臓に影響があることを選んだ方がいいという時代がやってくるかもしれない」と語り、会場の笑いを誘った。

 人間の身体にAIやロボット技術が影響する未来がやってくるのは明らかだ。その世界は、加齢まで操作できるといったように、我々の予想をはるかに上回るものになるのかもしれない。

 

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