2018年9月25日火曜日

AIが家庭教師や参考書の役割を果たす 教育機関でのAI活用の実態は?

 人工知能(AI)技術は、教育の提供や運営の在り方に大きな影響を与えつつある。既に生徒の学習の仕方に変革をもたらしている他、教師をサポートするとともに、大学の出願および入学プロセスの円滑化にも貢献している。

教室内外で教育を変革するAI技術
 K-12(米国の幼稚園から高校3年生にあたる12年生まで)の多くの教室で、教師はさまざまな学力の生徒を適切に指導するのに苦労している。特に公立の学校では、限られた予算とスタッフをやりくりしてしのいでいる。そのため各生徒に個別に注意を払い、生徒全員が基本的な知識を身につけた状態で次の内容に進むのは困難だ。しかしAIベースのツールがこうした問題を解決しつつある。これらのツールを使えば、指導および学習プログラムのカスタマイズにより、基本知識の習得に手間取る生徒をサポートできるからだ。
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AIはパーソナライズした家庭教師を提供
 AIベースのツールは機械学習を用いて個々の生徒に応じた学習メニューや指導計画を作成するため、各生徒が他の生徒の学習を妨げることなく、自分の学力や学習速度に最も合った方法で学習できる。これらのAIシステムは基本的に「自動化され、パーソナライズされた家庭教師」を提供している。
 これまで家庭教師は、ごく一部の裕福な家庭の生徒にだけ許されるぜいたくだった。しかし企業が開発を続ける教育向けAIツールにより、今ではほとんどの生徒が、最大限学ぶために必要な、一人一人に合わせた指導を受けられるようになっている。
 教師は多くの責任を負っている。その中には宿題の採点、作文の評価、親からの問い合わせへの回答、授業計画の作成、教育以外の事務などが含まれる。AIツールはこうした職務の多くを支援するようになった。その結果教師の自由に使える時間が増え、つきっきりの指導を要する生徒を見たり、グループ学習を後押ししたり、クラス討論を見守ったりといった、直接関与が必要なことに重点的に取り組めるようになっている。
 AIツールは、算数や理科の試験、作業学習、一部の読書課題や作文課題の採点もするようになりつつある。こうしたツールはまだ、高い品質や業務への適性は証明されていない。しかし予算が限られている学校は、AIツールの特別な支援に高い価値を見いだしている。
AIで学生の管理負担が軽減
 高等教育機関は重い管理負担に苦しんでいる。多くの学校、中でも入学者が多い大規模州立校や、出願者が多い人気校は、出願および入学プロセスの処理に四苦八苦している。膨大な出願者の審査は多くの場合、多大な時間を要し、面倒で、ミスが発生しやすい。
 大学など高等教育機関は、採用や人事管理システムの機能を参考にしたAIシステムを出願者管理に役立てている。こうしたシステムは、特定の基準に基づいて自動的に出願者をふるいにかけ、望ましい規模のグループに絞り込み、さらには出願者の情報収集と面接のステップの一部を自動化する。AIシステムは、これらの大学や高等教育機関にとって、さまざまな職務や責任を持つ既存スタッフに取って代わるのではなく、こうしたスタッフの能力を拡張する役割を果たしている。
 出願処理の担当スタッフは、出願者や親から多数の問い合わせを受けることが負担になっている場合が多い。大抵のケースでは、問い合わせの内容は単純だが、同じ内容の問い合わせが頻繁に寄せられる。先進的な教育機関はAIチャットボットを使って、キャンパス、学生生活、出願プロセスに関する質問に答え、スタッフの負担を軽減している。
 学生数が多い教育機関や大学の多くは、AI技術の利用をさらに推し進めている。多くの新入生にとって、キャンパスライフに慣れて勝手が分かったり、さまざまな学生団体について知ったり、教室の場所を覚えたりするのは大変なプロセスだ。
 アリゾナ州立大学(ASU)は、ユニークで魅力的な方法でAI音声アシスタントを使って、こうしたプロセスをサポートしている。ASUは2017年に、新入生に通常のオリエンテーションを行うだけでなく、ASUが開発したコンパニオンアプリケーションを組み込んだ「Amazon Alexa」デバイスを学生に配布した。
 この音声スキル搭載デバイスは、学生がASUのイベントを見つけるのを手伝い、学内の一般的な学生向けサービスの営業時間や建物の開館時間を案内し、講義日程に関するFAQに答え、学生をASUに慣れさせることができる。ASUは、学生がこのデバイスを使うことで、学生の満足度が向上し、提供施設の利用が拡大し、管理スタッフの負担が軽減していると報告している。
 AIツールは大学での教育にも活用されている。ツールを使って教科書の内容を要約し、コンパクトで取り組みやすい参考書を作成する取り組みが行われている。そうしたシステムの1つである「Cram101」は、章の要約、練習問題、テスト、学生が学習に使える教材用カードを含む参考書を作成する。学生にとって、これまでにはなかった強力な学習ツールだ。一部の参考書作成ツールでは、教授がフィードバックを受けて、各学生の学習進度をリアルタイムで把握できるようになっている。
教師や管理者に代わるのではなく、後押しする
 調査会社Research and Marketsによると、教育へのAI技術の利用は、2021年までに47.5%拡大する見通しだ。同じく調査会社のGlobal Market Insightsは、教育向けAIの市場規模が2024年には60億ドル以上に成長すると予想している。
 成長の鍵は、多くの教育機関がAIを用いて、教科書の要約技術のようにこれまでは得られなかった機能を実現したり、人の労働が大量に必要な分野で支援機能を提供したりすることで、組織としての可能性を拡張することにある。
 AIツールにより、教師はリアルタイムで、どの生徒に手厚い指導が必要か、どの生徒を次のレベルに引き上げる必要があるかを把握できる。宿題を課したり、テストを採点したりするのに使うことも可能だ。
 さらにAI技術はフロントオフィススタッフの一部の仕事の負荷を軽減し、24時間週7日、AIチャットボットで質問に答えることを可能にする。これらは学生のエンゲージメントを高めるとともに、学生のキャンパス活動を幅広くサポートする。
 多くの学校では今後数年間、大幅な予算増は予定されておらず、仕事の負荷は増える一方だ。AIを利用して教師と管理スタッフの能力を拡張する取り組みは、これからもますます盛んになりそうだ。

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