MITの研究者たちは、生成AIを使って量子計算に役立つような「革新的な材料」を創出する新しい手法を開発しました。
その名も SCIGEN(サイジェン)。これにより、これまで発見が困難だった超伝導体や量子スピン液体などの次世代材料が一気に現実味を帯びてきました。
生成AIで材料設計が可能に?その課題とは
近年、Google、Microsoft、Metaなどの大手企業が開発した生成AIモデルを用いて、新しい材料の設計が進められています。これらのモデルは、テキストから画像を生成するのと同じ原理で、数千万にもおよぶ新しい材料候補を生み出してきました。
しかし、量子特性(例:超伝導や特異な磁気状態)を持つ材料の創出には限界がありました。
なぜなら、これらの特性は非常に繊細な原子構造のパターンに依存しており、既存のAIモデルはそれを考慮できなかったからです。
例:量子スピン液体という量子計算に革命をもたらす可能性のある材料も、10年かけてわずか十数種類しか発見されていません。
解決策:構造制約付きAI生成「SCIGEN」
MITの研究チームが今回開発したSCIGEN(Structural Constraint Integration in GENerative modelの略)は、生成AIに幾何学的な「構造ルール」を与えることができる革新的なツールです。
これにより、以下のような量子特性を生み出す原子構造をAIが「意図的に」生成できるようになります:
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カゴメ格子(上下逆さの三角形が重なった幾何構造)
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リーブ格子(対称性の高い特殊な正方形構造)
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アルキメデス格子(異なる多角形のタイルでできた2次元格子)
🔬「我々が求めているのは、1000万個の安定した材料ではありません。世界を変える“たった一つの材料”です」
── MIT・李明達(Mingda Li)教授
実際に2つの新材料を発見!
SCIGENは、既存のAI生成モデル(例:DiffCSP)に簡単に組み込むことができます。
研究チームは、SCIGENを使って1,000万以上の材料候補を生成し、その中から
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構造が安定しているものを100万件に絞り込み、
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さらに2万6千件をスーパーコンピュータで詳細解析し、
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実際に2つの新しい材料(TiPdBi、TiPbSb)を合成・実証しました。
これらの新材料は、予測通り特異な磁気特性を持ち、量子コンピューティングの実用化に向けた重要な手がかりとなる可能性があります。
SCIGENの仕組みを簡単に解説
生成AI(拡散モデル)は、訓練データに基づき材料構造をランダムに生成します。
しかし、**SCIGENが「構造的なルールブック」**となり、不適切な構造は排除するため、生成される材料は最初から目的に適った形になります。
これにより、例えば以下のような目的でAIをコントロールできるようになります:
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特定の格子構造を持つ材料だけを生成する
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量子効果を発現しやすい設計ルールに基づいた候補を作る
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実験で合成可能な安定性のある材料に絞る
研究の意義と今後の展望
量子スピン液体など、次世代の量子材料の発見は現在も非常に困難で時間がかかります。
SCIGENは、構造的に可能性のある材料を「大量にかつ目的に沿って」生成できるため、実験研究の効率を飛躍的に高めることができます。
MITの研究チームは今後、次のような機能の追加も検討しています:
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化学的制約や機能的特性のルール化
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プロンプト最適化や複合AIとの連携
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新しい格子構造に特化した発見アルゴリズムの導入
🧪「安定性だけを求めてもブレイクスルーは生まれません。必要なのは、新しい“可能性”の扉を開くことです」
── 論文ファーストオーサー・岡部亮太郎氏(MIT博士課程)
実用化への期待
Drexel大学のSteve May教授も次のように評価しています:
「SCIGENは、次世代の電子・磁気・光学技術に必要な、これまで探索されてこなかった材料の発見を加速する革新的なツールです。」
材料科学の世界では、たった1つの発見が未来を変えます。
SCIGENは、そんな**“世界を変える材料”を見つけるための灯台**になるかもしれません。
📄 元記事(MIT News)
New tool makes generative AI models more likely to create breakthrough materials – MIT News
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