2018年7月4日水曜日

一見地味なアマゾンのスマートハウスから

 アマゾンが、5月から全米にスマートハウスのためのモデルハウスを展開している。その名も「アマゾン・エクスペリエンスセンター」。現在、カリフォルニア、フロリダ、テキサス州など14ヵ所に設置している。

 ただしモデルハウスと言っても、これはアマゾンが独自に建設したものではない。建売住宅メーカー大手のレナーと提携し、レナーのモデルハウスにアマゾンのAI音声アシスタント機器のアマゾン・エコーを統合したものだ。アマゾン・エコーがスマートハウスのために何ができるかを、具体的な住空間の中で見せようという試みだ。

 正直なところ、アマゾン・エクスペリエンスセンターは日本流の「スマートハウス」を期待して訪れると、がっかりする。見た目はよくあるアメリカ風の建売住宅で、未来的なデザインではない。また、アマゾン・エコーでできることも現在は限られている。スマートハウスが約束するような家全体の消費エネルギーのモニターや管理、太陽光の創蓄電といったことは想定されていないのだ。

 実際、意外なことにアメリカのスマートハウスへの関心は、日本に比べるとかなり遅れている。住宅に関連するIoT製品も多く発売されており、太陽光パネルの設置率も高い。だが、スマートホームを一体化して促進する日本の家電メーカーや住宅メーカーのような存在がなく、関連テクノロジーがバラバラに散在しているという状況なのだ。

 そこへ、アマゾン・エコーである。具体的に、アマゾン・エクスペリエンスセンターではどんなことができるのかを説明しよう。

「エコー」が家電のハブになる

 アマゾンでは、スマートハウスをユーザーの1日に合わせて説明する。朝起きてベッドサイドにあるエコーに「アレクサ、おはよう」と声をかけると、カーテンが開き、照明が点灯し、好きな音楽やニュースが流れる。

 出かける際には、車から玄関のドアをロック可能。帰ってくると、同じようにアンロックできる。昼間は子供達が帰宅したことがノーティフィケーションで知らされ、仕事場で確認できる。留守の間には時間を設定しておいて、庭のスプリンクラーを稼働させて水やりしたりもできる。

 帰宅後は、食事の準備中に音楽をかけたり、食後に「アレクサ、映画の時間よ」と言うだけで、スクリーンがアマゾンのストリーミングサービスに設定され、カーテンが閉まり、照明が低くなったりする。夜間は、電気代の安い時間を狙って、電気自動車にチャージングを開始するよう設定することもできる。

 これらは、バラバラに開発されているIoT製品がアマゾン・エコーをハブにして日常生活でシームレスに利用できるというアマゾンのシナリオに沿ったものだ。そうしたIoT製品は、「Works with Alexa」という認定を受けている。建売住宅メーカーと提携した上、エクスペリエンスセンターという場所を設けたことで、アマゾンはより具体的にエコーがスマートハウスで果たす役割をアピールしようとしているのだ。

 アマゾン・エクスペリエンスセンターで特筆すべきことがあるとすれば、2点だ。

 一つは、アマゾンが住宅業界にアグレッシブに浸透しようとしていること。実は建売住宅メーカーのレナーは、2016年に音声AIアシスタント「Siri」を持つアップルとの提携を発表していた。iOS機器からコントロール可能にするHomeKit対応のIoT製品をモデルハウスに統合可能にして、新しい住人が苦労せずにスマートハウスを享受できるようにするという計画だった。

 ところが、レナーはアップルからアマゾンに乗り換えたのである。その理由は、アマゾンが社員を送り込んで、新しい住人に合わせて機器のセットアップを行うという手厚いサービスを提供することだ。モデルハウスには、最初からエコー製品がついてくるが、それを利用して買った住宅をスマートハウス化するための面倒な作業をアマゾンがやってくれるというわけだ。

 レナーの他にもいくつかの建売住宅メーカーがやはりアップルからアマゾンに乗り換えたが、エコー対応のIoT製品が断然多いことも理由に挙げられている。アップルのHomeKit対応製品数は現在のところ60種あまり。一方、アマゾンによるとエコーに対応する製品は1200ブランドの製品4000種に上る。アップルが対応機器の見通しについてあまりオープンでないことも、乗り換えの理由になっているようだ。

 もう一つの特筆すべきポイントは、アメリカでは「音声」というインターフェイスがスマートハウスを推進する原動力になりそうだということが、同社の動きから感じられることだ。

 スマートハウスと言うと、システムが全体として整った近未来的な住まいが思い浮かぶが、アマゾンのアプローチにそんな美しい未来的な予想図はない。それよりも、エコーに対応するIoT製品を一つずつ増やしていく。アマゾンらしいオーガニックな拡張の方法だ。そして、気がついたらちゃんとした全体のシステムが出来上がっていた、ということがいずれ起こるのかもしれない。

 アマゾン・エクスペリエンスセンターを見ても、照明やドアから、エンターテインメント・システム、そしていずれ太陽光蓄電や省エネの制御まで、システムにつながる部品はそれなりに揃いそうだ。そしてそれまでの間に、我々はアレクサに話しかけることがすっかり日常のことになっているのだろう。

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