2018年8月30日木曜日

あなたたちは、本当に「AI開発プロジェクト」をやる気があるのか?

 第3次AIブームを背景に、最近では多くの企業がAIの導入を検討しています。今や大企業の4社に1社がAIを導入しているという調査もあるほどです。メディアを通じて成功事例が知られるようになってきましたが、AIの導入はそんなに簡単な話ではありません。例えば、次の会話のような状況でプロジェクトを始めると、どうなるでしょうか。
A:AIで新製品の需要予測をしたいんですけども、どうしたらいいですか?
>B:予測して、その後どうするんですか?
>A:えっ……分析してから考えるつもりです。
>B:ちなみに過去の実績や参考になるようなデータはあるんですか?
>A:新製品だからありませんね。他製品のデータは経営報告のスライドに書いてあったと思いますが……。
 「AIの開発には『データがない』『分析力がない』『開発力がない』という3つのカベが立ちはだかるのが一般的です。しかし、それよりもっと重要なのが『AIに対する理解や当事者意識がない』ということ。AIを活用したいという要望を聞きに現場に赴くと、実はそんなにやる気がなかったり、『あなたたちは本当に開発プロジェクトをやる気があるのか』と感じたりする――そんな例は少なくありません」
 こう話すのは、トランスコスモス・アナリティクスのCOO(最高執行責任者)を務める北出大蔵さん。データサイエンティストとして数々のAIプロジェクトを経験し、成功事例も失敗事例も経験してきたと言います。トランスコスモスはアウトソーシング事業を展開しているため、ユーザー企業だけではなく、運用現場を担当する自社メンバーからもAI活用に関する相談を受けるのだそう。なぜ、それでも導入に失敗してしまうのでしょうか。
あなたたちは本当に「AI開発プロジェクト」をやる気があるのか?
 「AIを試してみたい」と口では言うけれど、心の底では別にAIで何とかしたいとは思っていない……。「上に言われたから」「競合がやっていたから」「お客さまに言われたから」など、理由はさまざまかもしれませんが、AI開発が自分ゴトになっていない状況でプロジェクトがうまくいくわけがありません。その例が冒頭に示したやりとりです。
 「AIでも機械学習でもチャットbotでも、ツールを使って何かやるのが自分じゃないと考える傾向がありますね。『あなたが何か便利なもの作ってくれるんでしょう? 私の手を使わずに』と思っている。
 AI開発プロジェクトを立ち上げる際、声が掛かるのはありがたいのですが、呼ばれて行っても『課題がない』とどうしようもありません。そういう場合は大抵、音声認識や需要予測といったキーワードレベルで相談が来ます。そういう目的がないケースは、プロジェクトが早々に立ち行かなくなりますし、『社内にデータがない』という理由で止まることがほとんどです」(北出さん)
なぜAIに対する理解が進まないのか?
 システムでやりたいことがあっても、使う必然性がなければ使われず、放置されるだけでしょう。この当事者意識の欠落は「年を経てどんどんひどくなってきている」と北出さんは感じているようです。その背景には、AIに対する誤解があると言います。
 「AIという言葉は、誤解を生みやすいという点でタチが悪い。自律的に勝手に学んでいく機械学習の側面と、RPAのような自動化の側面、それに加えて、音声や文字のようなアナログのデータでもデジタル化すれば処理できるという側面。
 技術的な観点では、それぞれ全く別モノなのですが、今は全てAIという言葉でくくられてしまっています。だからこそ、余計に何ができるのかが分かりにくく、『何かすごいことができそう』という感覚が先行してしまうのでしょう。触ったことも見たこともないために想像できないというのも、大きな理由だとは思いますが……」(北出さん)
 「AIをイメージできない人々も、プロジェクトに一度でも参加すれば理解は深まる」と北出さん。「AIってこういう場面なら使えるよね」という感覚を得るには、とにかく当事者意識を持って、試してみることが重要だと言います。しかし、そのための課題設定やデータ準備に膨大な時間を費やしてしまっては、プロジェクトが全く進まなくなるため、失敗前提で一度試させるようにしているそうです。
 AIに対して過度な期待を抱く人が多いのは、多くのビジネスパーソンが「業務をプロセスで考えられない」という点も関係しています。
 「本来、AIは業務プロセスの一部を効率化したり、代行する形で導入されるはずです。例えば『4段階ある業務プロセスのうち、3段階目でいつも時間がかかっているからAIを使って効率化したい』となれば分かりやすい。しかし、業務プロセスが見えておらず、『この業務が問題。理由は分かりませんが、AIで何とかなるんでしょ」という発想になってしまう。こうなると話は進みません」(北出さん)
AIの導入には「業務をプロセスベースで考える」姿勢が不可欠だという(提供:トランスコスモス)
 古くはERPパッケージやDWH、DMP、データマイニングといったツールと同様に、「これがあれば、既存の問題は解決してうまくいく」という神話が、AIでも繰り返されているといえるでしょう。このような神話を基にプロジェクトを進めてしまうと、目的や狙いなしに取りあえずAIを試してみる、といった暴挙に出ることになってしまいます。
コンセプトなき「PoC」が横行している
 「ここ2年間のAIプロジェクトは特にそうだったと感じていますが、技術部門が『PoC(Proof of Concept)』という名の単なる技術検証しかしてこなかったケースが多いですね。本来はコンセプトが必要なはずなのにそれがない。試しに使ってみた、導入してみた、それだけなのです。一通り検証を終えると『いいっちゃいいけど、なくてもいいよね』といった評価が下される。課題を解決するために導入していないのだから当然です」(北出さん)
 技術検証や調査は重要だが、コンセプトなきPoCの検証を経て、プロジェクトが成功することはない。AIプロジェクトのカベといわれる「データがない」「分析力がない」「開発力がない」というのは、何をやるか決まってからの話です。分析や開発といったポイントはSIerをはじめとした外部の力を借りることも可能ですが、課題やデータは自社で持っていなければ、プロジェクトが始まることもないのです。
コンセプトのない「PoC」を繰り返しても、何の意味もありません(提供:トランスコスモス)
 「みんながもう少し知識を持っていれば……と思うのですが、それはそれで難しいですよね。『よく分からないから専門家が何とかして!』という話で、思考停止してるんですよ。日本企業でAIが普及しないのは『データサイエンティストが不足しているから』という話をする人もいますが、私はそうは思いません。もう少し実務に沿った形で具体的に落とし込んだ議論が必要でしょう」(北出さん)
 とはいえ、当事者意識や知識がない中でも、プロジェクトを進めていかなければいけない例もある。そういう場合、北出さんは必ず「じゃあ3回失敗しましょう」とクライアントに話すのだそう。一体なぜ、必ず3回失敗することになるのでしょうか。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験も。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。

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