2018年9月11日火曜日

RPAでいかに営業活動を支援できるか? デジタルマーケティング推進室の挑戦

 現在、デジタル技術による業務革新が急速に進行している分野の1つに、企業のマーケティング活動がある。
 かつて企業のマーケティング業務は、「経験と勘」や「人海戦術」がものをいう世界だった。過去に優れた実績を上げてきたマーケッターやプランナーが練り上げた広告施策やマーケティングの活動計画を、大量の人手を投入して一気に展開する。そして多くの場合、そのようにして打ったマーケティング施策の効果は厳密に検証されることなく、また次のマーケティング計画へと全員で一斉になだれ込んでいくことが少なくなかった。
 しかしWeb広告の登場とその急速な普及が、マーケティングの世界を一気に変えつつある。Webサイトやメールなどの媒体を介して消費者一人一人にリーチするデジタル広告は、その効果のほどがこと細かに記録されるため、その効果が検証しやすい。そうやって検証・分析した結果をさらに次の施策に反映させることで、マーケティングやキャンペーンの精度をどんどん高めていき、より費用対効果の高いマーケティング活動を実現するのだ。こうしたデジタルマーケティングの手法が、もはや当たり前のものとなりつつある。
 富士通マーケティングも、こうした新しいマーケティング活動に積極的に取り組む企業の1社だ。同社は社内に「デジタルマーケティング推進室」という専門部署を設け、既存ビジネスをデジタルマーケティングの手法で活性化・効率化するとともに、2020年までにデジタルマーケティングの枠組みを全社的に適用したまったく新たな営業プロセスの確立を目指し、日々最新のマーケティング手法の実践とその検証に取り組んでいる。
 同社では既に、デジタルマーケティングには欠かせない「MA(Marketing Automation)ツール」を導入し、デジタルマーケティング施策の立案、実行、結果検証のプロセスの大部分を自動化することに成功している。この取り組みを通じて、成約率が高いであろうと推測される見込み客(リード)を発掘し、そのリストを営業部門に引き渡すことがデジタルマーケティング推進室の大きなミッションの1つとなっている。
 可能な限り良質なリード情報を発掘して、それを実際の商談に結び付けることで会社全体の収益に貢献する。デジタルマーケティング推進室にはこうした期待が全社から寄せられており、それに応えるべくメンバーは日々MAツールを駆使して既存のマーケティング施策のブラッシュアップや、新たな手法の開拓に取り組んでいる。

デジタルツールの活用が進むほど人手作業も増える
 ただし、同社のこうした取り組みも、現在幾つかの課題に直面しているという。デジタルマーケティング推進室で導入しているMAツールは、確かにデジタルマーケティング施策に必要な作業のかなりの部分を自動化してくれる。しかし現実のマーケティング業務は、MAツールだけではとてもカバーしきれない。実際には、MAツールが自動実行してくれる作業の前後、あるいはそのはざまで数多くの人手作業が発生する。
 MAツールを使って、顧客の行動履歴やキャンペーンの効果を細かく分析すればするほど、さらに詳細にデータを分析してマーケティング施策を練り上げたくなる。そうなると、新たな分析対象となるデータを社内外のシステムから集めてきたり、それらを登録・集計するための作業が発生したりする。当然、これまで収集対象とはされていなかったデータを集めるわけだから、多くの場合は手作業を余儀なくされる。このように、MAツールを使ってデジタルマーケティングの活動を深めれば深めるほど、オートメーション化に反する人手作業が増えていくというジレンマが発生するのだ。
 また、こうやって新たな取り組みに人手が割かれるようになると、どうしても本来注力すべき業務の方が手薄になりがちだ。例えば、MAツールのデータベースから情報を抽出して、レポートにまとめて営業部門をはじめとする関係各所に配布する作業。一般的にMAツールへのアクセス権限はマーケティング部門の担当者に限られており、それ以外の部署の人間は直接アクセスできないようになっている。
 しかしMAツールには、「顧客が自社サイトでどのような情報をチェックしたのか」「どのようなコンテンツをダウンロードしたのか」「どのイベントに参加申し込みをしたのか」といった、顧客の興味や購買意欲を示唆する貴重な情報が詰まっている。こうした情報を社内の営業部門にフィードバックするために、デジタルマーケティング推進室では定期的にMAツールのデータベースから人手でデータを抽出し、営業部門ごとにカスタマイズしたレポートをまとめて配布している。
 MAツールを使った新たなデジタルマーケティングの活動に熱心になればなるほど、こうした既存の作業に投じられる人手が不足するわけだが、このレポート作成作業は極めて大量のデータを集計する必要があり、1回当たり6時間以上(処理待ちの時間を含む)の作業時間を要する。結果、営業部門にレポートを提示するタイミングが遅れがちになり、クレームを受けることも最近ではしばしばだという。

RPAによるデジタルマーケティング業務の自動化に着手
 こうした状況を打破し、既存業務を効率化しつつ同時に新たなデジタルマーケティング施策を開拓するための方策として富士通マーケティングのデジタルマーケティング推進室が導入を始めているのが、前回、前々回の記事でも紹介した「RPA(Robotic Process Automation)」だ。前述のように、データベースから大量のデータを抽出してレポートにまとめるような作業は、比較的単純な繰り返し作業である上、人手では極めて長い時間がかかるため、RPAの仕組みに代行させて自動化するメリットが極めて大きいと考えたのだ。
 同社では現在、全社規模でRPAによる業務の自動化・効率化に取り組んでいるが、真っ先に手を挙げた部署の1つがデジタルマーケティング推進室だった。既に、国産RPA製品を使っていくつかの業務を自動化する取り組みに着手しており、技術検証の段階にまで進んでいる。
 経理部門や人事部門のように定型作業が多く発生する部署と比べると、マーケティング部門は一般的に定型業務が少ないイメージが強い。事実その通りなのだが、限られた人員の中で常に新たな取り組みにチャレンジしていくためには、既存の非定型業務を何とか定型化してシステムで自動化するほかない。マーケティング部門の場合は、業務の形態自体が時代とともに変化していくため、相応のコストを投じてシステム開発を行って自動化を実現しても、次々に新しいニースが発生するためその都度システム改修が発生する。しかしその点、RPAなら比較的低コスト・短期間のうちに自動化を実現できるため、マーケティング業務のシステム化には費用対効果の面でも適していると言える。
 ただし、実際にRPAの導入検討に着手してみると、当初は思いもよらなかったような課題の数々に直面したという。実際に導入検討を始める前は、デジタルマーケティング推進室のメンバーは「人手の作業をシステムで記録するだけで簡単に自動化できるだろう」と踏んでいたが、実際にRPAを触ってみるとそう簡単ではないことが分かってきた。一見すると、人が何も考えずに機械的に操作しているように見える作業でも、それをいざロボットに記録しようとすると、「条件によっては、表示される画面をスクロールしないと選択したいリストが表示されない」「この操作のタイミングは、前の処理が終了したタイミングで実行すべきものだがどれだけ間を空ければいいのか」「定期的に変更が必要なパスワードをどうやって入力させるか」など、人が半ば無意識のうちに認識・判断して実行している作業の精度をRPAでも実現するためには、極めて高度なノウハウが必要なことが分かったという。
 RPAの実際の導入に当たっては同社の情報システム部門や、RPAソリューションに実績のあるパートナー企業の協力を全面的に仰ぎ、かつデジタルマーケティング推進室の中にもシステム開発の経験者がいるため、試行錯誤を繰り返しながらも一歩一歩着実に業務自動化の実現に向け歩を進めているという。
今後はAI活用など新たな取り組みにもRPAを適用
 デジタルマーケティング推進室では現在、既存の人手作業の中からRPAで自動化できそうなもの、自動化の効果が高そうなものを洗い出して、実際に自動化できるかどうか検証を進めているところだ。加えて今後は、新たに発生する業務や、これまで「人手でこれだけ大量の処理を行うのは無理」とか、「1回の処理に時間がかかり過ぎて頑張っても月2回が限度」と判断してあきらめていたような業務を、RPAで自動化していく試みも進めていくという。
 例えば、人工知能(AI)の活用などもその1つだ。既にMAツールを中心に大量に収集した顧客データやマーケティングデータを、人がMAツールやBIツールの機能を使って分析している。しかし今後はそれだけでなく、AIを使い、大量のデータを人が見て分かりやすい形にすることでまったく新たな知見を得たり、高精度な将来予測を行ったりしたいとしている。既に一部でそうした試みも始めているが、より高精度なAI分析を実現するには、今よりもさらに大量のデータを収集して分析する必要がある。
 そうなると、今でさえさまざまな場所からデータを人手でかき集めるのに苦労しているのに、さらに多くの人手を費やすはめになってしまう。この部分にRPAを適用すれば、さまざまなロケーションから多種多様なデータを自動的に収集・集計し、AI処理の前段となる「データマネジメント」の作業を大幅に効率化できる。AIを使ったデジタルマーケティングのさらなる高度な活用においては、RPAによるこうした自動化が不可欠だと同社では判断しているという。
 以上で見てきたように、デジタルマーケティング推進室では、「既存業務の効率化」「新たな取り組みのための手段」という2軸でRPAの導入に取り組んでおり、少しずつ成果が表れつつある。こうした取り組みの過程で得られたノウハウは、自社内だけに留めるのではなく、富士通マーケティングが顧客企業のマーケティング業務を支援する際に提供するソリューションにも適宜反映させていく。デジタルマーケティングを今後積極的に取り入れていきたいと考えている企業にとっても、富士通マーケティングの挑戦は大きな価値をもたらしそうだ。

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