2018年10月10日水曜日

“マルチAI”にどう対応するか システム管理の新たな課題

 「企業のAI(人工知能)活用では、IBM Watsonだけでなく、複数のAIが業務部門ごとに使われ始めている。そんな"マルチAI"をどう管理していくのかが、新たな課題として浮上してきた」——。日本IBMの山口明夫 取締役専務執行役員グローバル・ビジネス・サービス事業本部長は、同社が先頃開いた新サービス・ツール群の発表会見でこう指摘した。

 これまでにもさまざまなITツールで起きている現象だが、AIは業務に密接した活用が不可欠なだけに、起きるべくして起きているといっていい。ならば、山口氏が言うように、マルチAIをどう管理していけばよいのか。

 日本IBMの今回の発表は、そのニーズに応えたものである。企業全体で戦略的かつ効率的なAI活用を推進するための包括的なサービス・ツール群である「IBM Services AI Enterprise Knowledge Foundation」は、AI活用の戦略策定から、導入支援、AI人材の育成までの一連のサイクルをサポートするサービス群と、データやアルゴリズムなどのAI資産を公平に、透明性を保ちながら管理して可視化するツール群で構成される。

 ツール群の中でもとりわけ注目されるのが、AIによる意思決定のバイアス(偏り)を検出・軽減するソフトウェアサービス「Trust and Transparency capabilities」である。このツールは、AIの統合開発・分析環境である「Watson Studio」や、データの統合管理環境である「Knowledge Catalog」といったWatson製品を併せて活用することで、IBM製品だけでなく、オープンソースソフトウェア(OSS)も含めたAIシステム資産を管理し、高度な専門性がなくても容易に利用できるとしている。

 ちなみに、米IBMの発表資料によれば、Trust and Transparency capabilitiesは「Tensorflow」「SparkML」「AWS SageMaker」「AzurML」など、多種多様な機械学習フレームワークとAI構築環境で構築されたモデルにも対応し、「企業が使用する一般的なAIフレームワークの大半に対して管理が行える」としている。これがすなわち、「マルチAIの管理」のポイントとなるところである。

 このツールを含めたIBM Services AI Enterprise Knowledge Foundationの詳細な内容については発表資料をご覧いただくとして、ここからはマルチAIへの対応をめぐるIBMの基本的な考え方に注目してみたい。

 山口氏に続いて発表会見で説明に立った日本IBMの吉崎敏文 執行役員ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長によると、企業におけるAIへの取り組みは、これまでの実証実験(PoC)から一部業務で活用する段階に入ってきており、積極的なところではAIを強みにすべく全社で戦略的に活用する方向で動いている。

 ただ、そうした企業では、山口氏の冒頭の発言にもあるように、業務部門ごとに複数のAIが使われるケースも見受けられるようになってきた。吉崎氏は、「こうした業務ごとの個別AIシステムになってしまうと、使用するクラウドやデータの活用方法、学習方法などもそれぞれ個別になってしまい、それらへの対応を含めてシステムをどう管理していくかが、新たな課題になってくる」と説明した。

 そこでIBMが、その解決策として打ち出したのが「データ&AIプラットフォーム」を採用した仕組みだ。

 実はこのデータ&AIプラットフォームに、IBMの戦略転換が見て取れる。というのは、吉崎氏によると、IBMがこれまでこの部分に提供してきたのは、あくまでWatsonに対応したデータプラットフォームだったからだ。それを「データ&AI」と銘打ち、「さまざまなデータ」と「複数のAI」に対応する形に変えたのである。

 では、IBMが提供するデータ&AIプラットフォームとはどのようなものか。図3がその中身である。クラウドサービスの形態に対応した形で、最上部の業務アプリケーションがSaaS、その下のWatson APIからデータ・カタログまでがPaaS、その下のIBM CloudなどがIaaSという構造になっている。ただ、この図だとPaaSはWatsonの環境だけである。

 それをマルチAIに対応する環境に広げるべく、日本IBMが今回発表したのがTrust and Transparency capabilitiesである。

 今回はIBMの新製品発表を機に、マルチAIの管理について取り上げたが、企業において業務部門ごとに複数のAIが使われることは必然かもしれない。ただ、IT部門にとって、それらの管理を野放図にしておくのは、データガバナンスの観点からも避けたいところだ。そこに問題意識を持ってもらいたいというのが、筆者からのメッセージである。

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