ガートナー ジャパンは2018年10月25日、人工知能(AI)の推進に関する提言を発表した。ユーザー企業でのAIの推進を、これまでの現場の「改善」を中心としたものから中長期の企業「戦略」の核へと変え、ステージを引き上げるべきであり、ユーザー自身でAIのスキルを身に付ける必要もあるとしている。
ガートナーは2018年10月11日に発表した「日本におけるテクノロジーのハイプサイクル:2018年」で、AIは「過度な期待」のピーク期を過ぎ、幻滅期への坂を下りつつあると位置付けた(関連記事)。その根拠として、ここ数年で多くの企業がAIを試行し、2018年後半からAIに対する市場の捉え方が冷静になってきていると分析する。
ただし同社は、AIが今後も重要な技術であり続けるとしている。ガートナーが定義するハイプサイクルの幻滅期とは、「これからが本番」という時期だ。同社によると、ハイプサイクルでAIのステージが変わることは、企業がAIをより冷静に捉えており、これまで以上に戦略的に推進する必要が出てきていることを意味しているという。ユーザー企業はAIを、これまでの短期的な改善から、今後は中長期的で革新的なインパクトの創出を考慮して活用すべきだと、同社は指摘する。
ガートナーでは、ユーザー企業がAIを推進する際には、「改善レベル」と「戦略レベル」の2つのステージがあるとしている。一般企業でAIを推進するに当たって、多く場合は現場による改善レベルにとどまっている。今後はAIがさらに重要なものになると見られることから、一般企業もこのステージを戦略レベルに引き上げる必要があるという。
ガートナーが言う改善レベルとは、現場の改善を中心としたAIの推進を意味している。例えば、営業や生産の現場での課題を解決することを狙ったものだ。最近多く利用されているチャットbotはその一例だ。
それに対して戦略レベルとは、企業が中長期の戦略としてAIを推進することを意味する。戦略であるため、CEO(最高経営責任者)やCIO(最高情報責任者)といった経営陣がそのリーダーとなる。AIだけでなく、クラウドやIoT(Internet of Things)、ブロックチェーン、デジタルツインといったさまざまな技術を総合的に駆使することで、より大きなビジネスインパクトを狙う。
つまり戦略レベルのAIとは経営者が担当者に対して指示を出し、AIの提案依頼をベンダーに丸投げするようなものではない。経営陣が自らの戦略的意思を持って、顧客満足度の向上や、競争優位の確立、企業価値の向上などを狙って実行するものだ。
AIを用いたサービスの提供、そしてデジタルディスラプションへ
ガートナーはこうした変化を踏まえ、企業に対してAIに関する取り組みを再考する必要があると次のように提言する。
まず、企業はAIについて継続的な改善のアプローチを採用すべきだ。現場の短期的な改善だけではなく、中長期の継続的改良を前提とした戦略的なアプローチが必要だ。
AIは継続的に学習させることが必須であるため、「1回導入して終わりのプロジェクト」という発想自体が成り立たない。こうした問題を解消するためにも、ユーザー自身でAIのスキルを身に付ける必要がある。ただし、日本でも機械学習や深層学習を学ぶ機会は増えてきているが、ある程度のスキルを身に付けるためには、相当高いハードルを越える必要があるとした。
ガートナーのリサーチ&アドバイザリ部門でディスティングイッシュト バイス プレジデントを務め、アナリストでもある亦賀忠明氏は次のように述べている。
「これからの時代は、技術を駆使できる企業とそうでない企業に分かれる。その結果、10年後のビジネス競争は、今の競争から大きく様変わりするだろう。今後は、ユーザー企業であってもAIを『導入する』と捉える時代から、自分たちで必要なAIや、AIを組み込んだサービスを作り、提供する時代へと変わる。クラウドで提供されるAIプラットフォームはそれを支える一例だ。企業は早期にAI関連の人材投資を加速し、AIを自分で操るスキルを獲得すべく準備を開始する必要がある。そのためには、人事制度や報酬面での見直しが求められる」
さらに同氏は、「AIはバイモーダルのモード2に属する技術だ。モード2は、ダイナミックな変化を前提とする継続的改善というアプローチで臨むべきものだ。AIに関するプロジェクトということで、これまでのモード1に沿った大規模プロジェクトのような進め方は必ずしも適切ではない。これから起こり得る最大級のビジネスインパクトは、デジタルディスラプション(破壊)だ。このディスラプションに備えるという意味でも、AIをより戦略的に推進することが、多くの企業にとって極めて重要になる」と付け加えている。
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