2018年10月26日金曜日

「AI導入のリスク」よりも、「AIを活用しないことで起こるリスク」を考えろ

AI」「機械学習」「ディープラーニング」といった技術への期待が過熱する中、あらゆる業種、業界で、これらをビジネスへ適用する動きが加速している。アイティメディアは、2018926日に東京・秋葉原で「AI/ディープラーニング ビジネス活用セミナー」を開催。セミナーでは、AI活用を支えるさまざまなソリューションが紹介された。

AI導入のリスク」よりも「AIを活用しないリスク」に対処せよ

 AIを導入することによるリスクよりも、AIを活用しないリスクを考えよ——。

 こう訴えかけるのは、NECのプラットフォームソリューション事業部でマネージャーを務める青木勝氏だ。本セミナーでは「AIの時代を迎え撃つためのヒント」と題するセッションを行い、企業が今すぐにAI活用に向けて動き出すべき理由や、そのためのステップを紹介した。

 「もはや、AIはブームではなくなっている。『ビッグデータ』がバズワードとなった2012年から既に5年以上が経過しており、データを重要な資産として蓄積してきた企業は、それをベースにAI活用を進めることができる。『AIの精度が100%ではない』ことをリスクと捉えて手をこまねくくらいであれば、むしろ今後は『AIを活用しないこと』で想定されるリスクへ対処するために、データを蓄積し、AI活用に取り組むべきタイミングになっている」(青木氏)

 「AIを活用しないことで想定されるリスク」とは、少子高齢化に伴う労働者人口の減少や業務のノウハウを持った社員が不足することによる業務品質の低下などが挙げられる。青木氏は例として、NECフィールディングが5年以上にわたって取り組んできた「保守部品の需要予測」へのAI活用を紹介した。

 結果として、予測誤差率は、従来の35%から9%にまで下がり、年間で約2億円分の在庫削減効果があったという。青木氏は「予測精度は100%ではないが、それでもAIを使うことで、従来の手法と比べて大きく在庫リスクを削減できることが実証された」とその意義を強調した。

NECフィールディングが「保守部品の需要予測」へのAIを活用した結果、予測誤差率が35%から9%にまで下がった

 「AIでは、人手では難しい大量のデータ処理を迅速に行える。また適用範囲は広く、『人(採用、配置、離職予防など)』『モノ(品質予測、検品、故障予測など)』『カネ(在庫削減、売上最大化、不正検知など)』といった、ビジネスのあらゆる分野で活用できる。必要な条件は『課題解決に適切なデータがあること』のみ。だからこそ、まずはデータの蓄積を行っていることが重要になる」(青木氏)

企業の情報活用ステージを引き上げる、NECのソリューション

 青木氏は、AI導入につながる「情報活用」の成熟度を示すステージとして「データ取得(収集)ができているか」「データが活用できる形で蓄積できているか」「データを見える化してビジネスに活用できているか」「予測、最適化などの高度な分析のトライアルができているか」「分析モデルを作成しビジネスで成果を挙げているか」の5つを挙げた。

AI導入につながる「情報活用」の成熟度を示すステージ

 企業では、このステージを1段階ずつ上りながら「情報活用」のレベル向上を目指すことになるが、NECでは、このステージを一気に登れるようサポートする製品とサービスを提供しているという。

 例えば、ビッグデータ処理向けのデータベースアプライアンスサーバとしては「Data Platform for AnalyticsDP4A)」を用意する。データの検索や集計に特化した列指向型のデータベースと、大規模データ処理向けのハードウェアをアプライアンスとしてパッケージングした製品だ。データ活用に欠かせない「高速性」「簡易性」「経済性」を兼ね備えている。

 また、具体的に業務への機械学習導入を検討し始めている企業には、ディープラーニングを核とした機械学習アプリケーション「RAPID機械学習」を提供している。

 RAPID機械学習は、OSSの機械学習ライブラリ「Torch」をエンジンに採用したアプリケーションで、NECによる商用サポートが提供される。画像解析、テキストマッチング、時系列数値解析といった、応用範囲の広いモデルのテンプレートがあらかじめ用意されており、企業が手持ちのデータを使ってディープラーニングによる分類、検知、レコメンドなどをすぐに検証することが可能だという。

NECの機械学習アプリケーション「RAPID機械学習」

 「NECは、50年以上にわたってAI技術の研究開発を続けており、2000件以上のプロジェクトに関わってきた。ビッグデータの専門組織を持ち、その中でコンサルタントやデータサイエンティストも多く育成している。

 AIやデータ分析のための技術や製品は、ユーザーにとっては、システムで実現したい機能の一部でしかない。だからこそ、さまざまな業務とAIとを結び付けられるシステムインテグレーション力が重要になる。NECでは、AI活用を目指す企業に、コンサルティング、製品、インテグレーション、継続的な改善といったライフサイクル全体をサポートするサービスを提供できる。AI時代におけるパートナーとして、ぜひ相談してほしい」(青木氏)

AIや機械学習を包含する「アナリティクス」専業ベンダーの強み

 続くセッションでは、SAS Institute Japan ビジネス開発グループ エバンジェリストの畝見真氏が、企業における「アナリティクス・ライフサイクル」の重要性や、AIプラットフォームについて説明を行った。

 SAS Instituteは、1976年に設立された「アナリティクス」の専業ベンダーである。畝見氏は「近年、話題になっているディープラーニングは、機械学習のジャンルの一つ。SASにおいて『アナリティクス』は、機械学習をはじめとして、統計解析、データマイニングといった手法全てを包含する概念だと定義している」とする。

 「SAS40年以上にわたって、アナリティクス分野で豊富な経験と実績を積み重ねてきた。SASの顧客は、これまでもアナリティクスを通じて多くのビジネス的な価値を生み出してきた」

SASにおいて「アナリティクス」は、機械学習をはじめとして、統計解析、データマイニングといった手法全てを包含する概念だと定義している

 畝見氏は、AIを含むアナリティクスの活用を通じて、ビジネス上の価値を創出するためのポイントは、企業の中で「アナリティクス・ライフサイクル」を確立することだと強調する。

 アナリティクス・ライフサイクルとは、「データへのアクセス」「クレンジング」「準備」「データの探索」「分析」「モデル生成」「モデル管理」「業務への実装」「モニタリング」「結果に基づく改善」といった一連のプロセスであり、このサイクルをいかに素早く、正確に回し続けられるかが、ビジネス面での価値創出に直結するという。

 「ビッグデータの取り回しや、アナリティクスに関しては、OSSを含めてさまざまなソリューションがある。しかし、アナリティクス・ライフサイクルにおいて、それぞれのフェーズで使う個別のツールを継ぎはぎして使っていては、どうしても時間がかかってしまう。同じ時間の中で、できるだけ多くサイクルを回すためには、あらかじめ必要な要素が統合されたプラットフォームが適している」(畝見氏)

データ分析で価値を生み出すには、「アナリティクス・ライフサイクル」が重要だという

「アナリティクス・ライフサイクル」の確立に統合環境が必要な理由

 企業が「アナリティクス・ライフサイクル」を確立するためのツールとして、SASが提供しているのが「SAS Viya」と呼ばれるプラットフォームだ。SAS Viyaでは統一されたGUI環境から、先ほど挙げたライフサイクルの全プロセスを、実行および管理できる。

SASが提供するプラットフォーム「SAS Viya

 「SAS Viyaでは、ビジネスユーザーやビジネスアナリスト、データサイエンティスト、デベロッパーなど、さまざまな役割とスキルレベルを持つ人が、自分に合ったユーザーインタフェースを使い、同一のプラットフォーム上でアナリティクス・ライフサイクルを展開できる」(畝見氏)

 例えば、ビジネスアナリスト(業務部門でデータ分析を行うユーザー)は、基本的にSAS Viyaに用意されたGUIツールを使ってデータの準備や分析を行い、データサイエンティストは、GUI環境やSAS言語に加えて、PythonRJavaLuaといった言語の中から自分が慣れ親しんだものを使って独自の処理を加え、そのコードをViya上にホスティングし、共有するといったことも行える。

 データの分析やモデル作成といったアナリティクスは、SASの最も得意とする領域だ。SAS Viyaでは、あらかじめ用意されたモデルテンプレートを使って視覚的に分析のプロセスを作成できる。このテンプレートのコードはオープンになっているため、必要に応じて独自にカスタマイズすることも可能だ。

 また、SAS Viyaは、ディープラーニングの活用に当たって「モデルによる判断の根拠を可視化できる」機能が用意されている点が特長だという。一般に、ディープラーニングによる判断のロジックは"ブラックボックス"であり、なぜそのような結果になったのかの原因究明は難しいとされる。

 SAS Viyaでは、例えば画像認識ならば、判断結果に強く影響を与えた部分をヒートマップとして表示したり、影響の大きな入力変数や、その変数と他の変数との相互作用などを探索したりできる仕組みが用意されている。この機能は「より効率的なモデル改善に活用できる」(畝見氏)という。

「データサイエンティストの本質は、ビジネス価値の創出にある」と畝見氏は強調する

 作成したモデルは、業務に適用して初めて価値が生まれ、その結果をモニタリングし、改善していくことで価値を高められる。SAS Viyaでは、モデルを"企業の資産"として管理し、改善していくための環境も用意している。予測モデルのバージョン管理、業務プロセスへのデプロイ、実装後の精度モニタリング、必要に応じた再学習の実施といった作業が、他のプロセスと統合されたGUIから実行可能だ。

 「こうした、各プロセス間の遷移や連携がスムーズに行える点が、統合プラットフォームであるSAS Viyaの最大の特長。複数ベンダーのプロダクトやOSSの組み合わせでは、ここまでスムーズにはいかない」(畝見氏)

 畝見氏は今後、企業におけるデータサイエンティストの役割は、さらに広がっていくと予測する。

 「かつてのデータサイエンティストは、データの加工や分析、モデルの精度向上などが主な仕事とされていた。しかしこれからは、ビジネス知識を備え、社内のさまざまな部署を巻き込みながら、プロジェクトマネジャーと連携して『アナリティクス・ライフサイクル』のグランドデザインを描き、ビジネス価値を創出していくことが真価になるだろう。ただ、そこまでが可能なスーパーマンは少ないのも事実。そのときは、SASが提供しているソリューションもぜひ検討してほしい」

 

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