2018年10月26日金曜日

IaaS比較は落とし穴ばかり 「Amazon、Microsoft、Googleから選ぶ」では失敗する?

 IaaS(Infrastructure as a Service)を選ぶときはまず、クラウドサービスのどういった機能を利用するのかを把握する必要がある。

 Synergy Research Groupが2017年に公開した調査によると、IaaSは数多く存在するが、Amazon Web Services(Amazon)、Google、Microsoftといった大手クラウドベンダー3社による「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」(Azure)、「Google Cloud Platform」(GCP)の3サービスとIBMの「IBM Cloud」が市場収益の63%を占めるという。だが参入しているクラウドベンダーは相当数に上る。Rackspaceをはじめとして、DigitalOceanのように小規模だが特定の市場をターゲットとするクラウドベンダーなど多岐にわたる。

 自社のニーズに合ったIaaSを選ぶことは複雑で難しい。性能や価格がクラウドベンダー間で標準化されていないことがその一因だ。米国とヨーロッパの主要パブリッククラウドに対し、仮想マシン(VM)インスタンスとストレージの性能で比較したランキングを作成しているCloud Spectatorのような企業もあるが、パブリッククラウド分野で信頼性の高いベンチマークレポートを見つけるのは依然として困難だ。

 それでもIaaSを選ぶ場合は、さまざまな機能や要素を基に比較し、評価しなければならない。比較する機能や要素には、信頼性、地理的規模、価格、ハイブリッドクラウドをサポートする能力などがある。

VMのオプションと性能
 各クラウドサービスのVMは、同じような構成に見えても性能や価格に違いがある。その原因はCPUの速度や機能の差異などハードウェアの違いによるものもあれば、VMにパススルーするソフトウェアや構成の違いによるものもある。

 Cloud Spectatorによると、同じ構成でもVM本来の性能が2倍も変わることがあるという。入出力性能ではその差がさらに広がり8倍に達する。ただし、これはRackspaceのクラウドサービスの突出した数値で、他クラウドサービスは全て3倍以内に収まっているという。

 IaaSの機能という点から見ると、豊富なエコシステムを備えるAmazonが首位に立っているのは明らかだ。GoogleとMicrosoftは同社に追い付こうと奮闘している。IBMも強力な製品ラインアップを構築しているが、IaaSに構築するSaaSの基本機能に集中している。大手クラウドベンダー3社は、幅広い種類とサイズのVMを用意しており、コンピューティングリソースを集中的に使用するアプリケーション、メモリを多用するアプリケーション、入出力処理の多いアプリケーションなどを対象に最適化している。また、GPUインスタンスも提供している。そして間もなくFPGA(Field-Programmable Gate Array)によって加速される人工知能(AI)や機械学習(ML)機能も提供するようになる。こうした機能は特定市場をターゲットにするクラウドベンダーや小規模クラウドベンダーとの大きな差別化要因として、大手クラウドベンダー3社の迅速な導入能力を示している。

 考慮すべき最も重要な点は、VMの価値に違いがあることだ。アプリケーションをサンドボックス化して、自社に合ったスペックを把握するのが賢明なアプローチといえる。

信頼性と地理的分布
 大手クラウドベンダー3社であっても障害は起きる。米国バージニア北部のデータセンターで、AWSの「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)に障害が発生し、復旧まで2日間かかった。だが、その影響を受けたのは、複数ゾーンのストレージレプリケーションを使用していないテナントだけだった。大手クラウドベンダーの障害のほとんどは、ルーターのコード更新の失敗など、社内管理ミスが原因だ。

 ユーザーは、ワークロードを複数のクラウドベンダーのアベイラビリティーゾーンや複数ストレージに分散することで、全てではないとしても、大半の障害を緩和できる。そうは言っても、大手クラウドベンダー3社は小規模クラウドベンダーよりもアベイラビリティーで優れている。大手のクラウドベンダーは大抵、しっかりと検証したオーケストレーションコードや、復旧に役立つリソースプールを有しているためだ。さらに広範な地域にデータセンターを設置しているため、アベイラビリティーの選択肢が多い。ただし小規模クラウドベンダーといえども、通常少なくとも2カ所にデータセンターを用意している。クラウドベンダーの地理的多様性はバックアップとアーカイブシステムにも影響する。

 だがAmazon、Google、Microsoftをはじめとする一部のクラウドベンダーは、ゾーン間やリージョン間のデータとVMの移動に追加料金を課している。そのためTCO(総保有コスト)にこの費用を盛り込む必要がある。

 最後にクラウドベンダーのアベイラビリティーゾーンを評価する際は、自社市場の地域性を考える必要がある。データを顧客の近くに置けば、遅延やコストを削減できる。これは多国籍Web運営企業にとっては重要なポイントだ。

管理性と使いやすさ
 管理ダッシュボードからスクリプトの作成、破棄をするツールまで、IaaSの管理ツールの使いやすさは管理者の日常業務に影響を及ぼす。Amazon、Microsoft、Googleは、クラウドのアドオンサービスに力を注いでいる。こうした動きは運用オプションの増加にはつながるが、同時に簡略化するコストも増加する可能性がある。これに対し、DigitalOceanはアドオンサービスよりも、自社のサービスの使いやすさを重視している。

 Amazon、Microsoft、Google、IBMは、多種多様なことができるよう、ツールやサービスの提供に力を注いでいる。データベースなど、自社製のコードと他社サービスの統合を計画している場合に評価できる。大手クラウドベンダーは、統合の潜在的価値を高めるために、サードパーティー製SaaSのサポートを増やしている。この分野では大手クラウドベンダーが優位に立つだろう。

 こうした大手クラウドベンダーは、スクリプトを作成するツールや、仮想ネットワークの開発を進めていて、この点ではAmazonが市場をけん引している。AmazonはIaaS用のコンピューティング容量を、どの競合他社よりもはるかに多く有しているため、スクリプト作成などの分野におけるツールの標準化と互換性への取り組みを主導することが多い。その一例が、オブジェクトストレージのインタフェースだ。他の全ての大手クラウドベンダーがAWSの「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)の互換モードを利用している。

 また、CLI(コマンドラインインタフェース)やダッシュボードによる管理制御も提供している。こうした管理ツールを評価するには、各クラウドベンダーの機能を把握するために、まず小規模サンドボックスを構築する。次に、一連のインスタンスを構築し、作成と削除の両面で管理を行う。さらに続けて、異なるストレージシステムにデータを移動する。

 アプリケーションの実行性能を測定し、コストと使いやすさを確認することも必要だ。大規模VMクラスタの場合は、クラスタ管理ツールも評価する必要がある。

 ユースケースによっては、さらなる検証が必要になる場合がある。Cloud Spectatorによる検証が示すように、コンピューティング性能は能力の一部にすぎず、入出力性能にも大きな違いがある。入出力が多いワークロードの場合は、ストレージ性能も測定する必要がある。サードパーティー製のツールを必要とする高度なワークロードもある。GPUベースやFPGAベースのVMクラスタがその例だ。基盤となるハードウェアによっては、ネットワーク性能や特殊なコンピューティング処理に大きな差が出る場合がある。

 クラウド間連携の取り組みが行われているのは確かだが、クラウドベンダー間でAPIが異なることから、完全に相互運用可能になるまでには至っていない。

データサービス
 多くのクラウドベンダーが提供する幅広いデータサービスは、IaaSの初期決定に影響を及ぼす可能性がある。現時点では、クラウドの生産性を向上させるサービスについては、大手クラウドベンダー3社とIBMが他の小規模クラウドベンダーや特定市場をターゲットとするクラウドベンダーに勝っている。こうした生産性向上サービスには、さまざまなデータベース、ロードバランサー、ビッグデータ分析、GPUのサポートなどがある。データサービス分野ではAmazonが他をリードし、Microsoftがこれに続いている。GoogleとIBMは成長著しいインテリジェンス市場に的を絞っている。

 同じことがGPUインスタンスやAIインスタンスにも当てはまる。IBMは、幅広いサービスを提供し大手クラウドベンダー3社と肩を並べている。新たに出現するこうした技術は多額の開発費用を必要とするため、小規模クラウドベンダーは太刀打ちできないかもしれない。

ハイブリッドクラウドのサポート
 ハイブリッドクラウドをサポートする能力は、IaaSの一機能だがその重要性は増している。この分野での新たな連携とサービスが、AmazonやMicrosoftなどの市場リーダーの力を強め、クラウドベンダーの選択に影響を与える可能性がある。

 Microsoftは、企業がプライベートクラウドとパブリッククラウドによりシームレスに連携しAzureを導入できるようにする「Azure Stack」をリリースした。またAmazonとVMwareの提携によって、VMwareの「VMware vSphere」環境をAWSで利用できるようになる。GoogleはRed Hatと提携してハイブリッドクラウド導入を実現する。

 こうした提携により、今後数年以内にAmazon、Microsoft、Googleがハイブリッドクラウドの一部を担当し、ユーザーは単一のドメインからそれぞれを管理できるようになる可能性が高い。パブリッククラウドとプライベートクラウドの相互運用を可能にするソフトウェアの開発にかかるコストは、他のクラウドベンダーがこの市場に完全に参入するのを妨げるだろう。だがOracleやSAPなどのベンダーが、複数セグメントで利用できるデータベースなど、ハイブリッドクラウド機能が備わったツールを開発することも考えられる。

 クラウドの移行が容易でないことを考えると、IaaS機能を検討する企業にとっては、ハイブリッドクラウドのコンポーネントが大きな鍵となる可能性がある。Microsoftを使用する企業はAzureを好み、LinuxユーザーはGoogleとAWSを好むだろう。また、AWSはVMwareユーザーにとっても魅力的なサービスとなった。

 OpenStackを運用している企業は、Red Hatと提携したGoogleのサービスを好むと思われる。ハイブリッドクラウドにおけるIBMの役割は、IBMの「IBM Watson」によって、運用管理の高度な自動化を提供することかもしれない

経済と戦略の実行可能性
 Hewlett Packard Enterprise(HPE)とVMwareの例が示すように、IaaSの競争を勝ち抜くためには、潤沢な資金とIT分野での高いブランド力だけでは不十分だ。Amazon、Google、Microsoftは早くからクラウド競争に加わり、強力な顧客基盤を構築してきた。

 小規模クラウドベンダーは生存競争に直面している。Rackspaceは管理にさらに注力するために、パブリッククラウド市場から撤退している。こうしたことは、小規模クラウドベンダーがこの市場で生き残れるのかという疑問を生む。IBMとOracleはどちらかというと、特定市場を対象とするベンダーだ。だがIBMはWatson、Oracleはデータベースという防御策を用意している。中国市場ではAlibaba Group HoldingやHuaweiといったベンダーが強い存在感を示している。

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