2018年10月5日金曜日

AIベースのマーケティングオートメーションでデータが不十分な企業でも勝てる——Appier CEOに聞く

 スタートアップの動向を調査・分析する米CB Insightsが「The AI 100」というレポートを発表している。ここにおいて、2000を超える企業の中から革新的なAI技術に取り組んでいる100社として2年連続で選出されているのが、台湾に本籍をおくAppier(エイピア)だ。同社は2018年6月には「NetworkWorld Asia(NWA) Information Management Awards 2018」において、APAC(アジア太平洋地域)のCIO(最高情報責任者)やCISO(最高セキュリティ責任者)およびIT/データセンター統括部長による投票で「最も有望なAIソリューション」を受賞するなど、ユーザー企業からの評価も高い。

 Appierは、AI(人工知能)をベースに企業の経営課題解決を支援するためのテクノロジーを提供する。同社は台北の本社と東京・大阪を含む14拠点でビジネスを展開し、APACでビジネスを拡大させ続けている。2017年8月には3回目となる資金調達を実現。ソフトバンクグループ、LINE、NAVERなどから、3300万ドルの出資を受けた。

 現在のAppierの主力ビジネスとなるのはデジタルマーケティング支援の領域だ。これまで、マルチデバイス対応の広告プラットフォーム「Cross X AI」に加え、オーディエンス分析・予測を実現するデータサイエンスプラットフォーム「AIXON(アイソン)」を提供してきた。そして、2018年8月には満を持して、AI主導の次世代マーケティングオートメーション(MA)プラットフォーム「AIQUA(アイコア)」をリリースした。

 これらの製品が何を実現するのか。そしてAppierがAIで成し遂げようとしていることは何か。CEO兼共同創業者のチハン・ユー氏に、同社の事業戦略について聞いた。

3つの製品でマーケティングファネル全体をカバー
——新製品のAIQUAは「AI主導の次世代マーケティングオートメーションプラットフォーム」ということですが、他社のMAとの違いを教えてください。

ユー氏 AIQUAの差別化要素は2つあります。まず私たちのソリューションは、お客さまの社内データベースだけを考えていないということにあります。自社サイトのやりとりだけを中心に見ていると、どうしてもカスタマージャーニーが限定されてしまう。AIQUAの設計で重視したのは、どうすればお客さまが社外の顧客接点にリーチできるかということでした。自社のデータ以外で顧客が何をしているかが分かれば、リーチが広がる分、顧客に対して先行的(プロアクティブ)に手を打てます。これがAIQUAの設計で重視した1つ目のポイントです。2つ目は、クロスデバイスでも顧客を統合的に見ることができること。一般的にデータはデバイスごとに分断してしまいますが、私たちは他とは違うテクノロジーで顧客を統合的に見ることができるのです。

——AIQUAの導入事例について教えてください。

ユー氏 AIQUAは発売以降、順調に採用が進んでいます。例えば南インドのあるOTT(Over the Top)プロバイダーが採用した例では、コンバージョンを50%向上させました。OTTというのはつまり、Netflixのようなサブスクリプション型の動画配信サービスのことです。サブスクリプションビジネスでは、無料会員の興味関心を醸成して有料会員への転換させるとともに、既に契約済みの有料会員に使い続けてもらい、解約の予兆があれば対策を打つことも必要になります。AIQUAはその両方に役立つのです。

——Appierの製品ポートフォリオには、MAだけでなく広告配信やAIによるオーディエンス予測分析があります。CrossX AIに始まって次がAIXON、そして今このタイミングでマーケティングオートメーションのAIQUAをリリースしたのは、何らかの技術的なブレークスルーがあってのことなのでしょうか。

ユー氏 というよりも、むしろお客さまのニーズに応えた形です。私たちは常に市場主導型のイノベーションを重視しています。AIXONをリリースしたときも同じで、お客さまの課題を解決するため、よりシンプルなAIソリューションを提供したかったのです。

——AIQUAを他の製品を合わせて使うことで、どのような効果が得られるのでしょうか。

ユー氏 Appierの製品は「見込み客選定・獲得」「維持・訴求(エンゲージ)」「オーディエンスの精査」まで3段階の処理をサポートします。CrossX AIはマーケティングファネルの上位に位置付けられ、見込み客を獲得する機能、ファネルの中間がAIQUAで既存ユーザーをロイヤルユーザーに転換する機能、ファネルの一番下はAIXONがロイヤルユーザーの将来の行動を予測する機能を担います。Appierのソリューションは3段階それぞれでデータを見逃すことがないよう、入手した全てのデータを保存します。

人間とテクノロジーの進歩を見据えて独自路線を歩む
——Appierの市場におけるポジショニングについて教えてください。どういう企業を競合と考えているのでしょうか。

ユー氏 Appierはユニークな立ち位置にあり、他の企業と競争しているという意識はありません。私たちが競争の対象としているのは、テクノロジーと人間の欲求の進歩です。私たちが興味を持っているのは、お客さまが今何を必要としているか、お客さまの今の取り組みをより良くするにはどうしたらいいかということだけです。私はもともと大学の研究者でしたから、常に他の人が何をやっているかよりも、先を見て独自のことをやろうと考えています。

——現在の顧客が今求めていることとは、具体的には何でしょうか。

ユー氏 最大のチャレンジはデータに関することです。データはとても重要ですが、うまく活用できている企業は多くありません。お客さまの将来の競争力を左右するのは、過去のデータではなく今あるデータです。だからこそ、私たちはお客さまが今あるデータをいかにうまく使うかに注力したいと考えています。マーケティングを顧客に対してよりプロアクティブなものにし、スピード感を高めるということ、そして集めたデータを長期的な資産に変えることを重視しています。

——ニーズがあるのはどういう企業でしょう。

ユー氏 過去2年ほどは、私たちのお客さまはインターネット企業が中心でしたが、2018年に入ってから、オンラインとオフラインの両方に注力する企業が増えてきました。日本だけでなくアジア全体でその傾向が見られます。AIの活用はほとんど全ての組織において重要です。データを蓄積し、資産に変えようとする企業はますます増えるでしょう。

——オンラインとオフラインの施策の統合に取り組む企業が増えているのは、世界的に何かそれを後押ししている要因があるのでしょうか。

ユー氏 世界的なトレンドというよりも、AIでユーザーの行動を予測するには、オンラインとオフラインのデータを統合しなければ、正しい解釈ができないからだと思います。マーケターが施策をスピーディーに展開するには、オフラインのチャネルをどうつなぐかを検討しなくてはいけません。また、社外で顧客が何をしているかを理解することも重要です。社外のデータへの拡張という点では、オンライン行動の理解にもまだ開拓の余地はあります。

機械と人間はお互いに学び合うことができる
——既にあるデータをどう活用するかと悩む企業もあれば、そもそも絶対的にデータ量が不足している企業もあります。後者がAIに期待することは、手っ取り早く正しい答えを得ることだと思うのですが。

ユー氏 私たちがやりたいことは、まさにそうしたニーズに応えることです。もっと言えば、顧客に関するあらゆるデータを十分に持っている企業というのは、恐らく1つも存在しないと思っています。顧客と深くつながるには多くのデータが必要です。Appierはお客さまが必要とするデータを補完的に提供でき、高額な費用を投じなくても最先端の機械学習やディープラーニングのアルゴリズムを利用できるようにしています。

——データ、アルゴリズム、アプリケーションの3つの分野で顧客を支援すると。

ユー氏 Appierはアジアを中心とする20億人分のクロスデバイスユーザーデータを収集しているので、CrossX、AIQUA、AIXONを使えば、顧客の行動理解や予測に関して、自社に足りないデータを補完できます。お客さまが持つデータを基にした理解とわれわれが持つデータを基にした理解を組み合わせることで、素晴らしい成果が出せるでしょう。

——現場のマーケターにとって、機械学習のアルゴリズムを使うことは難しくないでしょうか。

ユー氏 CrossXでもAIQUAでも、処理は自動的に実行されるので、ユーザーは高度なアルゴリズムを利用しているという感覚はないでしょう。それでも裏にあるアルゴリズムが強力なものであることは理解してもらえるはずです。AIXONではマーケター自身がアルゴリズムを意識することなく、キャンペーンに必要な分析軸を選ぶことができるし、選んだ分析軸によって結果がどう変わるかをその目で見ることもできます。

——AIの意思決定のプロセスをブラックボックスにしないことは重要ですね。

ユー氏 その通りです。AIXONではAIがどのように意思決定を行っているかをマーケターが最善の形で学ぶことができます。逆にAIの意思決定に人間がインスピレーションを得ることもあります。機械と人間はお互いに学び合うことができるというのが私の考えです。

——今後注力したいことがあれば教えてください。

ユー氏 Appierでは「全てのビジネスに使えるAIを提供する」を会社のビジョンとして掲げています。もっと完全な形で製品ポートフォリオを拡大することに注力しています。アジアからさらに販路を広げていくこと、B2Cに加えてB2Bまで支援するお客さまを広げることも将来的な検討課題です。とはいえ、最優先すべきは今私たちの製品を使ってくださっている企業です。私たちは今後も、お客さまのビジネスの成功をサポートすることを重視していきます。

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