2018年11月5日月曜日

転送が遅い、保守が煩雑、コストがかかる——クラウド移行の課題、ハイブリッドクラウドなら解決できるのか

 「単純に今ある仮想システムをベアメタルの"クラウドと呼ばれるサーバ"に置き換えるだけでは、ハイブリッドクラウドではない」——。こう語るのは、日本マイクロソフトの浅野智 業務執行役員クラウド&エンタープライズ本部長だ。同社が先頃開いた「企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)における最新インフラへの移行支援に向けたハイブリッドクラウド戦略」に関する記者説明会でのひとコマである。

 Amazon Web Services(AWS)とVMwareの協業商品である「VMware Cloud on AWS」を意識した発言とみられるが、果たしてその根拠は何か。最近のIT関連の会見では、競合相手を挑発するような熱っぽい発言をあまり聞かなくなったが、浅野氏の話にはそうした熱意とともに「ハイブリッドクラウドのありよう」について考えさせられるところがあったので、今回はこの話題を取り上げてみたい。

 まず、Microsoftがハイブリッドクラウドを推奨しているのは、多くの企業にオンプレミスで使われているサーバOS「Windows Server 2008」が2020年1月14日に、データベースソフト「SQL Server 2008」が2019年7月9日にサポートを終了するのに伴い、まさしくハイブリッドクラウド環境への移行支援を促進しているからだ。

 8月に発表された移行支援策では、ユーザーの利用状況に応じて「オンプレミス環境での最新OSへのアップグレード」「クラウド環境(Microsoft Azure)への再ホスト(リフト&シフト)」「クラウド環境への再設計による移行(リファクタリング)」といった3つのフェーズを用意。さらに、これらの移行支援策を推進するために、ユーザーの課題に合わせて適切な戦略パートナーを紹介する「マイクロソフトサーバー移行支援センター」を設立。戦略パートナーは8月の発表時点で57社が参画した。

 その時の動きについては、8月13日掲載の本コラム「AWSに顧客を奪われるな! Windows Server新環境への移行に向けたマイクロソフトの"深謀遠慮"」で解説しているので参照いただくとして、その後、移行支援センターを通じて4000社を超える顧客企業に意向を聞いたところ、およそ6割がオンプレミスからクラウドへ移行したいと考えていることが分かったという。つまり、8月の発表が奏効したのである。

 一方、実際にクラウド移行に取り組んだ顧客企業からは、さまざまな課題も寄せられた。例えば、ファイルサーバとして使っている場合には転送速度や遅延時間、アプリケーションサーバの場合は運用管理やID管理、データベースサーバの場合はオンプレミスとクラウドの混在管理やコスト抑制・保守簡略化といった内容だ。

 こうした課題に対し、浅野氏は「ハイブリッドクラウドを活用することで解決できる」と説明した。

 「競合他社の利用環境を表した左側の絵は、矢印が示すように一方向の移行しかできない。それに対し、当社の利用環境は認証やアプリケーション基盤、データベース、運用管理などがオンプレミスとクラウドの間を行き来できる。こうしたインタラクティブで一貫性のある利用環境こそが、真のハイブリッドクラウドだと考えている」

 冒頭で紹介した発言は、この説明に続けて踏み込んだ浅野氏の"売り言葉"ともいえるが、今回、筆者がポイントとして挙げたいのは、同氏が語った「真のハイブリッドクラウド」のありようだ。筆者自身はハイブリッドの後に「クラウド」という言葉が続くことに違和感を持つが、いずれにしても今後、これまで以上に頻繁に使われるキーワードになるとみられるだけに、Microsoftの問題提起を今回のテーマとしておきたい。

 ちなみに、Microsoftは真のハイブリッドクラウドを実現するオンプレミス環境の最新OSとして、「Windows Server 2019」を10月に発表した。浅野氏によると、Windows Server 2019は「オンプレミス環境とMicrosoft Azureをよりシームレスに連携できるOS」だと言う。例えば、Windows ServerのファイルシステムとAzureのファイルシステムを同期する「Azure File Sync」などの機能を備えているのが特徴だ。

 こうしてみると、MicrosoftはWindows Server 2019を整備できたからこそ、「真のハイブリッドクラウド」を打ち出したともいえる。浅野氏はハイブリッドクラウドに対するニーズについて、「一気にクラウド移行するのはハードルが高い。そこでまずはハイブリッドクラウドの形にして、どこまでクラウド化できるかを見極めたいと考えるお客さまが増えてきている」とも語った。

 その上で同氏は、「(Windows Server 2008のサポートが終了する)2020年1月までにWindows Server 2019の利用環境の80%をハイブリッドクラウドにしたい」との目標を掲げた。今回、Microsoftが問題提起したように、今後はハイブリッドクラウドの「品質」にも注目するようにしたい。

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